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ブナ林の中の逐鹿山山頂 |
新北市三峽區熊空の奥は、雪山山系の北端北插天山系の山稜が、烏來とを分けている。山稜上には、標高1727mの北插天山を盟主に、北方向へ
紅河谷古道の峠へと段々と下がって行く。その内のピークの一つが逐鹿山(標高1414m)である。この標高レベルの山々は、中級山という位置づけで、もっと台北に近い郊山とは、性格を異にする。登山口熊空から一番近く、この山域をこれから歩いていく予定の、そのさきがけとして登った。今月初め
大保克山から下って、内洞森林公園の山道から見かけた大きな山容の山が逐鹿山でもある。もちろん烏來側からも登れるが、交通の便から一般的には熊空からが多く、山道もあまり歩かれていないようだ。
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西の熊空から逐鹿山を往復 |
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単一山頂の往復 |
逐鹿とは、鹿を追う意味だが、聞くところではこの地の原住民泰雅族のハンターが、鹿を追いかけこの山頂へやってきて、更に追いかける前、後続のハンターへの道標として帽子をおいて行ったことが、山名の由来だという。狩猟を生活の糧としていた原住民が、鹿を追いかけるということは、日常行われていたことで、遠くはなれた中国海南島三亞でも、同じように原住民が鹿を追いかける逸話がある。こちらは、もっと内容がロマンチックだが。泰雅族も、逐鹿山だけで鹿を追いかけていたわけでは、無いだろうが。
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熊空と烏來の山々 |
熊空は、三峡からバスで50分ぐらいの距離にある。807番バスが1日数便往復している。休日は三峡早朝6時の始発便の後は、8:30となる。台北からだと、始発は間に合わず、次便で熊空到着は9時半前ぐらいになる。一方、熊空発の帰りのバスは、最終便が18時のため、行動時間はバス利用ではどう頑張っても、8時間である。この山域は山が深く、まだ経験がないたため今回は様子をさぐるため、逐鹿山だけを往復することにした。もともと下山時には途中から逐鹿山西峰を経由し、雲森瀑布へ降りるつもりであった。下山始めてまもなく大雨が降り出し、こちらの道は途中沢の渡渉部分があるため、沢の増水があるかどうか未知の状態で行くよりも安全な、同じ尾根道を下った。
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有木157之1号民家わきの登山道入口 |
今回の登山は、Zさんと奥さんの都合三人パーティだ。三峡バスターミナルで落ち合う。8時半少し前、807バスに乗る。前回はここですでに満員になったが、今日は空いている。午後は雷雨になるという天気予報なので、行楽客が少ないのか。それでも三峡の街中で乗り込んできた乗客で、満員となり一路熊空へ向かう。8時18分、途中の混雑もなく、熊空バス停に到着する。
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雲森瀑布への分岐(右の道) |
支度をすませ、早速出発。熊空産業道路を少し登り、有木157之1番地民間わきの細い道から山に入る。この道は、熊空果園産業道路へ続く近道である。登って行くと、左に谷を挟んで火焼寮山や加九嶺が望める。10分ほどで、舗装の産業道路へ出る。上から降りてきた、野菜を収穫して天秤棒に担いだ農夫とすれ違う。数分で右に雲森瀑布への道を分岐する。更に10分ほど産業道路を登る。右に谷を挟んで組合山が見える。組合山の尾根を追っていくと、遠くに樂佩山と卡保山、そしてその左には目標の逐鹿山がそびえている。まだまだ、高くそして遠い。
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第一登山口近くの産業道路から見る主稜線、左から逐鹿山、卡保山、樂佩山 |
産業道路がヘアピンカーブで大きく曲がるところに、山道が入っていく。これが第一登山口だ。熊空バス停から約30分ほどの距離だ。産業道路をそのまま行くと、第二登山口に着く。山道を進む。踏跡は、しっかりしているが倒木などが現れる。急な坂を登りつめ、10時10分、広い道に着く。ここは左から第二登山口からの道が合流する場所だ。谷側に降りていく道もあるが、登山道は真ん中を登っていく道だ。登山道は、雨水の通りみちとなってしまっており、真ん中が深く掘られたり、石が露出して歩きにくい。そのうち、山腹を横切って行く道になり、状態は良くなる。幅もあり、よい登山道だ。
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左が第二登山道からの道、前の道が登山道 |
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紐のようなコウガイビル |
二、三箇所分岐を過ぎる。道の真中に黄色の平べったい、長さ20センチぐらいの紐のような昆虫がいる。触ると縮んで三分の一ぐらいになる。頭が三角形だ。今まで、見たことがない虫だ。詳しい人に尋ねたところ、コウガイビルというプラナリアの仲間だそうだ。ヒルというが、分類的にはヒルではなく、血を吸うわけでもない。その先には、倒木にきくらげが生えている。比較的ゆるやかな山腹道が20分ほど続くと、稜線に向けて登り始める。10時42分、道は尾根に取り付く。ここからは、逐鹿山の西尾根を登っていく。
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ブナ林のなかの歩きやすい山道 |
風があまりない。気温がそれほど高くないのが幸いだ。ただ、すでに全身汗のことには、変わりがない。少し開けた場所を過ぎる。稜線が狭くなる。道はずっと登りだが、木の根の部分が少し歩きにくい以外は、よい道である。11時5分、岩が幾つか並んだちょっとした広場に着く。休憩に持って来いだ。ここは、少し風も吹いている。熊空から歩き始めて約1時間40分である。標高約900m、距離としては頂上までの半分を歩いた。登りは、まだ500数十メートル残っている。冷えたコーヒーがうまい。
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尾根上の道を進む |
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杉林の中を歩く |
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逐鹿山西峰への道 |
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涸沢を進む |
相変わらず登りが続く。尾根は幅が広がってくる。日本の山ではよく見かけるが、台湾では比較的少ないブナ林が続く。そのうち、尾根が終わり比較的ゆるやかな山腹道を進むようになる。樹相は杉林になる。赤地に白文字の逐鹿山と記された表示がある。その先さらに登ると、右に西峰から雲森瀑布へ続く道が分岐する。辺りは、またブナの木である。涸沢が現れる。沢ぞこの道を少し進む。頂上へ急な坂がここからはじまる。その前に休憩することにする。時刻は12時、2時間半ほど登ってきた。食事を少しとり、最後の登りに備える。
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ブナ林の中を登る |
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道わきに咲く根節蘭 |
朝は、森の中に陽が差し込んでいたが、今は森は薄暗く、天気は曇ってきたようだ。一度登って、また細い涸沢に下りる。赤い標識には、水場が沢の下方にあるとのこと。急な坂が続く。紫色の根節蘭が咲いている。ところどころ、補助ロープのある急坂が現れる。赤土が深く掘られた、歩きにくいところもある。上方から人声が聞こえる。そのうち子犬を連れた、二人のパーティが降りてきた。今日であった唯一の登山者たちだ。残り10分ほどで頂上だと言う。
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頂上直下の登り、あと僅かだ |
12時51分、逐鹿山の頂上直下部分へ着いた。そのまま道を行くと、卡保山だ。左の小高いところが山頂だ。熊空バス停から約3時間半の登りだった。尾根をそのまま進むと、紅河谷古道の鞍部へ続く。その前には、拔刀爾山からの尾根が合流する。いずれは、歩こうと思う。ただ、こちらの道は、今歩いてきた登山道に比べるとあまり歩かれていないようだ。霧がかかってきた。頂上の周囲は樹木で、もともと展望はない。頂上でしばし休憩する。
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逐鹿山山頂 |
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下りはじめ |
十数分の休憩後、同じ道を下り始める。途中、先ほどすれ違った二人のパーティが立ち止まって雨具をつけている。そのまま、通り過ぎ下っていく。30分ほど下り、比較的ゆるやかな山腹道になったところで、雨が本降りになった。我々も立ち止まり雨具を着ける。遠くでは、雷の音も鳴っている。天気予報どおり、雷雨になってしまった。13時54分、逐鹿山西峰への分岐に戻ってきた。雨足は強く、いつ止むか判らない。西峰への道を下ると、渡渉部分があるようだ。またその先にも別の渡渉部分がある。道の状態と増水の可能性が判断できないので、安全をとって予定を変更し、登ってきた尾根道を下ることにする。道はわかっているので、足もとにさえ注意すれば安全だ。濡れた根などは、滑りやすいので注意が必要だ。
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霧の森を下る、雨が少しふりだした |
山頂から下り始めて約1時間、朝休憩した大石の広場で一休みし、更に下る。14時50分ごろ、朝登ってきた第一登山口からの道の分岐に着く。ここからは、もう一つの第二登山口からの道をとり進む。こちらは距離が長いが、緩やかで道の状態がよく、歩きやすい。15時少し過ぎ、第二登山口についた。雨も止んだ。ここで雨具を外す。次の807番バスは、15時40分発だ。急げば間に合う。舗装した道を左に下る。第一登山口を過ぎ、足早に下る。対岸には組合山が、上がっていく霧に囲まれている。熊空バス停への近道を進み、15時27分、民家の登山口についた。さらに少しで熊空バス停だ。全身ずぶ濡れで、衣服を着替えていると、807バスが15時38分にやって来た。急いで荷物をまとめて乗車する。バスは定刻15時40分に発車、滿月圓森林公園を経由して、三峡に向かった。
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霧の中の組合山を望む |
今回の山行は、片道約5kmの山道を約6時間で往復した。登攀累計は1140m、単一ピークの往復なので、これは熊空と逐鹿山山頂との高度差に近い。道は、上部に急な坂があるものの、状態は良い。この山域の他の山をこれから登っていくのに、だいたいどのように臨めばよいか、感覚がつかめたと思う。今回の難度は、山道はクラス3、体力要求は3+というところだろう。この周辺の山は、植相などは異なるが、高度といい山道の感じといい、日本の奥多摩の山のような雰囲気がある。
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