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通宵虎頭山山頂から遠望する塗崁頂山 |
苗栗縣は、台湾高山である雪山山脈の群峰を擁する一方、台湾海峡に面した地域がある。丘がかなり海まで迫り農地としての平地は少ないが、高山に比べると性格はかなり異なる。標高も200m以下の低山が主であり登山道もあまりないので、登山対象としての魅力は少ない。そのような理由で、今まで足を踏み入れたことがなかった。
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北から南へ歩く |
台湾北部の冬は、季節風の影響で天気が良くない日が多い。南へ進むと天気は良くなり、中部以南は乾季である。九州ぐらいの大きさの台湾島だが、その気候は場所によってけっこう差異がある。この数年冬季には台北から南へ下がり歩くことが多い。今回はそのような活動で、尚且つ公共交通機関で訪れることができる、苗栗縣の通霄へ足を運んだ。なお、ここでいう通霄は地名だが、その意味は夜通し、徹夜という意味である。
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目的地は苗栗縣の海岸沿い |
海岸から東へ丘が続く地形なので、今回は白沙屯から海岸沿いを歩き、新埔より海を離れて丘を登り、丘陵地帯を下って海岸沿いの通霄へでた。通霄には海の近くに聳える虎頭山があり、その山頂には日本統治時代の日露戦争にからむ記念碑やその山麓には神社が残っている。その意味では、日本人にとって歴史を感じることができる場所でもある。
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虎頭山山頂にて |
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白沙屯駅に到着 |
台北から海岸沿いのこの地区に行くには、台湾国鉄の海線が通っているので、国鉄を利用して往復できる。7時24分発の區間快車(区間快速)で出発する。快速電車なので、自強號などの急行列車ほどではないが、利用者の少ない駅は停車しないため、そこそこ速い。竹南駅から主要幹線の山線から離れ、海側を行く。9時32分、約2時間10分の乗車で白沙屯駅に到着した。台北の陰鬱な空に比べ、ここは気持ちのよい青空だ。
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宗教色彩の白沙屯駅舎 |
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駅舎を背後に街をぬける |
白沙屯は、毎年春に行われる台湾道教の主要な神様媽祖の里帰り行事(媽祖遶境)の出発点の一つで、多くの信者がここの拱天宮から北港へ神輿に乗った媽祖像とともに行列をなして歩いていく。白沙屯駅前には、その宗教的な飾りが付けられている。9時45分、我々18名は駅から街をぬけて濱海公路を歩き始める。海岸沿いの道もあるが、線路を渡る箇所まで行く必要がある。第三高速道路や快速道路ができて、濱海公路の交通量が減ったためか、道脇の商店などは廃業して久しいようだ。
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濱海公路脇の建設途中で中止した建物や土地公 |
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台鹽公司工場観光園区入口 |
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ここで右折 |
10時2分、台鹽公司の工場前を通り過ぎる。工場敷地の道路側は観光園区になっている。駅から約1.5㎞ほどのガソリンスタンドの脇から右に道を取り、線路を渡って海岸へ出る。堤防上に上がると強い風を感じる。近くには風力発電の大きなプロペラもいくつかある。海沿いの道はサイクリングロードにもなっている。堤防上の道はちょうど工事中で、堤防下の道を南へ進む。10時半、二階建ての涼亭がある、広場に来る。休憩をとる。
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踏切を渡る、向こうに海 |
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堤防から北方向を望む、風力発電機がたくさんある |
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二階建て涼亭 |
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広場から見る大海原 |
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これから行く塗崁頂山が新埔の街の向こうに |
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新埔漁港 |
さらに進み小さな新埔漁港を通り過ぎる。その先工事が終わり整備された堤防道が始まるところで、海岸を離れ丘の方向へ進む。鉄道の下をくぐり濱海公路へ上がる。脇に嶺頂福神祠の看板がある角を曲がり、東へ進む。印刷工場脇を行き第61号快速道路を陸橋で越す。その先から登りが始まる。全く民家などがない道だが、車の往来がある。嶺頂福神祠を訪れる車のようだ。
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濱海公路をくぐり上がる |
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嶺頂福神祠の看板 |
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第61号快速道路 |
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荒涼な様の塗崁頂山 |
高度が上がってくると、先ほどの海岸線が明瞭になる。ヘアピンカーブを曲がり、その先に塗崁頂山への土道が分岐する。道を進み分岐を右にとって、幅の広い草の稜線を南に進む。風が吹き抜ける稜線に、トーチカがぽつんとある。海岸線を一望できるこの地点は、その昔中共の台湾侵略に対し対抗するための準備として造られた施設だ。今はすでに廃棄されているが、中共の台湾を侵略するという意図は、習近平のもと以前に増して強い。ちょうどこの週末(1/13)に総統選挙がある。蒋介石の反共意志をすっか忘れた国民党などの親中共政党が勝つのか、それとも現行の民進党が勝つのか、世界中が注目している。
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大分登ってきた |
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ヘアピンカーブ |
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枯草の荒涼とした山稜 |
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西南峰へ進む、左にトーチカ |
11時27分、だだっ広い山頂の塗崁頂山西南峰に着く。小さなケルンがあるだけで、山名表示などはない。山頂のその先少しのところにも廃棄されたトーチがある。往路を戻り、分岐から少し登って、11時44分塗崁頂山に着く。三角点のある山頂は標高162mに過ぎないが、周囲の波のように続く丘陵が広がる様がよく見える。
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塗崁頂山西南峰山頂 |
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山頂からのパノラマ |
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塗崁頂山主峰へ往路を戻る |
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塗崁頂山主峰山頂のメンバー |
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舗装路へ戻る |
舗装路の分岐に戻り、嶺頂福神祠へ向かう。途中左に遊歩道があるので、そちらを進む。展望台を越えてまた下り、木炭を焼く窯のレプリカが造られている広場を過ぎる。遊歩道はその先の展望台で終わる。戻って木炭窯のところから舗装路を進み、12時6分終点である嶺頂福神祠に着く。まだ新しい土地公の建物は再築されたもののようだ。祠前の休憩所で昼食をとる。近くにはトイレもある。
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遊歩道 |
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台鹽公司工場 |
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炭焼窯レプリカ |
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嶺頂福神祠 |
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この分岐を左へ |
12時40分、やってきた舗装路を戻り、塗崁頂山下の分岐を左に曲がる。それまでの舗装路に比べると、ほとんど使用されていないようだ。コンクリ舗装の道は、かなり時間が経っている。先ほどのトーチカと同じように、戦時に対する戰備道だろう。いままでの道も実は戰備道で、嶺頂福神祠があるので整備されたのかもしれない。
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相思樹の道 |
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先ほどの塗崁頂山西南峰 |
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前方が地図上の內湖山 |
道はかなりの勾配のところもある。戦車などの走行を想定したものと思う。周囲は相思樹だ。木炭の原料として多く植林されたもののようだ。全く人気のない山道は、本来土の道だろうが、ここは全部コンクリ舗装だ。13時9分、分岐が現れその上の丘は、地図上では内湖山となっている。道はないが上がってみると廃棄された大型水槽があるのみで、山頂を示すようなものは全くない。
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全く人気のない道 |
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草の根が覆うコンクリ舗装路 |
下がってさらに進む。道は相変わらず人気のない山を進む。上りのところもある。地図が示す北勢窩山への山道入口は、それらしいものが見当たらない。そこでさらに下っていき、草にほぼふさがれた舗装路の分岐から上がっていく。舗装路が終ったところで、道らしいものが見つからない。山仲間も一緒に探し、古ぼけたマーカーを見つけ、それをたどって13時48分、三等三角点のある北勢窩山(標高93m)につく。訪れる人はほとんどいないのだろう。往路を下って、分岐で休憩をとる。
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前方の林の中を登る |
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北勢窩山山頂の筆者 |
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往路を下る |
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門が取り付けられた山腹地 |
本来なにかの施設があった緩やかな山腹の脇を下り、間もなく苗31号県道に降りる。右にまがり、通霄鎮まで約5㎞ある長い県道歩きを始める。県道を行く車はほとんどない。冬のこの季節では暑くないが、それ以外の季節では暑くてこの道を歩くのは大変だろう。ほぼ平らな道は、畑の間を縫っていく。14時50分、道脇で休憩をとり、15時11分濱海公路を渡る。前方に次第に近づく虎頭山を見て、通霄鎮の街に入り、15時25分川沿いの小公園で休憩する。
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苗31号県道を行く |
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畑の間の県道 |
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県道9K地点 |
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通宵の街に入る |
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休憩の時メンバーがビールをシェア |
15分ほどの休憩後、通霄鎮公所(町役場)の脇の登山口から虎頭山を登り始める。階段道を登ること約10分、山頂(標高93m)に着く。山頂には展望テラスや、その上に大砲をかたどった記念碑がある。この石碑は、本来日本統治時代の日露戦争記念碑であった。日露戦争の際に、はるばるやってきたロシアのバルチック艦隊を、この山上で監視していた兵士が見つけ、その情報をもとに日本艦隊がバルチック艦隊を待ち受けた、ということである。但し、戦史ではこの位置でロシア艦隊を見つけるのはできないはずで、宣伝的な効果を狙ったもののようだ。当石碑は戦後、国民党政権によって光復紀念の文字に取り換えられた。
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通宵鎮公所 |
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虎頭山登山口 |
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山頂のテラスと記念碑 |
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記念碑 |
山頂からの景観は、上記のロシア艦隊発見の可能性を示すように、長い海岸線とその向こうの大海原が広がる。手前には海岸に立つ火力発電所と風力発電機が見える。目を内陸側に向ければ、これまた遮るものがなく通霄鎮の街やさらに続く丘陵、そしてその遠くには加里山や東洗水山などの苗栗縣の山地が見える。その奥には雪山山脈があるはずだが、霞んで判別できない。午前中に訪れた塗崁頂山も明瞭だ。  |
山頂から内陸方向のパノラマ |
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海岸方向の眺め |
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桟道から見る通霄神社 |
約20分ほど過ごした山頂を後に、16時28分下り始める。5分ほど下り通霄神社の社に降りる。1937年に建立された神社は、上記の日露戦争記念碑と同期に公開されたそうだ。戦後は、神社は廃棄され、一時期は軍隊の福利社などになったが、2002年から復興が始まった。参道の石灯籠や鳥居などが残り、本殿は余計なものがあって日本の神社とは趣を異にするが、全体としてはまだ日本時代の様子を彷彿できる。社建物の内部は、現在は展示場になっている。社下の社務所建物は、日本時代の木造建築が残っているが、損傷が大きく復興工事が始まるのか、保護の屋根がかぶさり、金網で囲まれている。
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神社本殿と灯篭 |
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社務所建物 |
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通霄駅 |
参道をさらに下り街中を進む。16時43分通霄駅に着く。17時20分の区間電車まで時間があるので、駅近くのお店で麺を食べ、駅に戻って電車で竹南へ出る。ここで18時30分発の区間電車に乗り換え台北に戻った。台北には20時27分に着いた。
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プラットフォームの向こうに沈む夕陽 |
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竹南駅で台北行区間電車に乗り換え |
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今回のルートは起伏はあまりなく、累計で登坂約340mである。但し距離は長く17.2㎞ある。休憩込みで約7時間、コース定数は 21である。台湾北部の山は結構登ってきたので、このような丘陵地の山行も候補に挙がってきた。それは、筆者だけでなく高山も百岳を終えた登山者たちが、新たな対象として歩き始めている。台湾の地形を知る意味で、この山行は興味深い。
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