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2025-07-17

2025年7月12日 廃棄森林鉄道ルートから加里山を登る

稲穂の向こうに加里山(雲をかぶった峰)

苗栗縣の加里山は、2014年に初めて訪れて以来、今まで3回登頂している。2014年当時の筆者にとっては、本格的な中級山登山の始まり時期でもあった。初回は天気に恵まれず、最短のルートで鹿場登山口からの往復であった。その後は、哈加縱走ルート、また泰安虎山経由そして橫龍山を下る長いルートで登頂している。加里山ルート中で、まだ歩いていなかった半世紀以上前に使用されていた森林鉄道の廃棄軌道を経由することで、今回は登頂した。過去に歩いている部分と重複する場所もあるが、大部分は初めてであった。

森林鉄道軌道(廃棄され登山道として使用)

台湾の森林鉄道というと、今でも運営している阿里山森林鉄道や、一部が再開した大平山森林鉄道がよく知られている。加里山の森林鉄道は、純粋に伐採した木材運搬のためであり、前者のような観光資源とはならなかった。そのため、歴史のかなたに追いやられた感があり、資料もあまり見当たらない。その少ない資料によると、日本時代の1920年代に麓の南庄に林業の会社が設立され、樟脳産業が始まったという。樟脳の原生クスノキが伐採された後には、吉野杉が植林され林業が展開されたようだ。切り出した木材や機材を運搬をするために、加里山と哈堪尼山との間の鳳美溪にそって軌道敷が開かれレールが敷かれた。対岸には、木馬道も開かれたそうだ。日本が去った後も林業運営は続き、1970年ごろまで行われていた。

時計回りに歩く
廃棄されて半世紀以上が過ぎ、沢を渡る個所などは橋などは遠の昔に流され、道床も崩れてレールが近くに散らばっているような場所も少なくない。そのうち大坪登山口に近い鞍部から鹿場登山口から登ってくる分岐点(避難小屋)までは、林務保育署によるメンテが行われ、立派な橋や道標などが完備し、だれでも歩ける道となっている。かなりの部分はレールもしっかりし、今でもトロッコが走れのではと思えるような場所もある。一方、その先は、歩く登山者は少なくなり、それなりの経験が必要なルートとなる。道床が流された場所は、かなり大きく下巻をしなければならない場所も多い。ただ、幸いロープや簡単な道標などがあり、迷うことはない。

一等三角点がある加里山山頂

今回のルートは、大坪登山口から出発し、鞍部から線路道を約5キロ歩いて、哈堪尼登山道分岐へ行き、そこから加里山へ登頂した。下山は、避難小屋からの道を下り、その途中分岐から左へと下って鞍部へ戻り、大坪登山口へと戻った。

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頭份・三灣インターチェンジ近くから見る加里山

久しぶりの早朝出発である。5時過ぎに台北からメンバー一人の車をシェアして登山口へ向かう。1時間と少しで約束していたコンビニでほかの二台の車と合流、ただ登山口付近の駐車スペースが少ないで、一台を残し都合8名のメンバーは二台でさらに道を急ぐ。南庄の街を過ぎ、仙山方向へ登っていく。二年前に大坪山に登った時と同じに、大坪林道に入りさらに高度を上げる。道端に駐車している車がそこここに現れ、8時少し前幸い登山口から遠くない場所で我々も車を泊めた。

大坪登山口
杉林の間を登る

もう一台の車は下のほうに止め、そのうちやってきて一緒に登山口へと進む。8時7分、いよいよ登山口から出発だ。加里山は直接登頂できる登山口は二つ、この大坪と鹿場とである。それ以外に、隣接する尾根を経由しての登頂もできる。それぞれ特徴のある登山ルートだ。大坪登山口は、標高約1360メートル、加里山山頂は2220mで、単純な落差は約860mとなる。最短な登頂ルートは、下山に下った道を登るルートである。

山腹を登る
鞍部休憩広場、突き当りに杜鵑嶺登山道が分岐する
丸太を使った階段道が続く。数日前まで台風の影響でかなり雨が降ったので、道はかなり湿っている。杉人造林の間を登ること約25分、森からでて山腹を縫って登る。8時42分、 大坪山との鞍部に着いて、ベンチで休憩する。気温は22度、標高1600mを超えているので、さすがに涼しい。休憩広場は、その昔は材木の運搬中継場所であったようだ。当時の木材を麓へと運ぶウインチが広場端に廃棄されており、一方、木材を運んできたトロッコの軌道がここから山へと延びる。

トロッコ車輪など廃棄機材、左奥にレールが延びる
廃棄ウィンチ
分岐部
広場端からは、杜鵑嶺へ登る尾根道がすぐ分かれる。左の軌道道を進む。廃棄されているがまだかなりしっかりした軌道道を進むこと3,4分で右に道を分ける。この道は下山時に降りてくる予定の道だ。本来森林鉄道なので、軌道は勾配も大きくなく、山腹を縫って進む。さらに行くと、沢を超える。このような場所は、廃棄されて半世紀の歳月の間に、軌道は流されてしまっている。その後、本来の鉄道橋に換わる歩道橋が作られている。

軌道は途切れ、歩道橋が新設

高巻からレールが残る軌道敷に戻る
状態のよい軌道部分
進むにつれ、さらに道床が流されてしまっている箇所が次々と現れる一方、まだこのままトロッコが走れるのではないかと思えるほどの、よい状態の場所もある。不通部分は、高巻や下巻道で通り越す。過去の数多くの登山で遭遇した林道の崩壊ヶ所と同じく、長くメンテされていない山腹を行く軌道では当然の結果である。9時46分、大坪登山口起点から登山道3.5K表示を見る。さらに小さな崩壊ヶ所を過ぎ、9時51分に避難小屋についた。ここは、鹿場登山口からの道の合流点でもある。11年前の初回訪問時にここを通った時に、軌道を見ていずれは軌道を歩いてみたいと思っていたのが、やっと実現したわけだ。

山腹を縫って軌道が延びる
別の歩道橋
レールが流された軌道敷を進む

3.5K
避難小屋についた
柵の向こうに軌道は続く
軌道は鳳美溪にそってさらに奥へと延びる。10時6分、具合がよくないので一人で登山口へ戻るというメンバーと別れ、さらに軌道を進む。この先は登山道ではないという警告標識を過ぎ、軌道を進む。先ほど歩いた政府によるメンテがされている軌道跡とは違い、こちらはとてもワイルドだ。細々と延びるレールは、杉落葉で埋まっている。倒木が邪魔する。ほどなく崩落部を通り過ぎ、さらに5分ほどで軌道が途切れ、大きな崩落部に出た。沢が流れているが、その先がはっきりしない。地図上では、下側にもう一つのレール道があるようで、前進をあきらめ、往路を戻る。すると下方に道が見えたので、強引に下り、このレール道に降り立つ。この上の軌道で、30分ほど費やしてしまった。

草や倒木に覆われた軌道

押し流された部分



下方の軌道、位置番号表示板がある
こちらのレール道は、そこそこ歩かれておりマーカーや、また地元消防隊の位置確認標識も現れる。もちろん前半の良好な部分とは違い、ずっとワイルドである。杉林の間を行く軌道は間もなく途切れ、大きく下って沢を超えまた軌道へ登り返す。半世紀以上過ぎて、まだ道床やレールがしっかり残っているのが、実は驚異なのかもしれない。さらに数カ所、大小の下巻を一つ一つ過ぎていく。急な場所にはロープも取り付けられていて助かる。いやになるほどの下巻を過ぎ、12時哈堪尼登山道との分岐点についた。これから始まる600m弱の登攀に備えて昼食休憩をとる。

下巻いて沢を越す
軌道へ戻る

小さい崩壊部分
残された車輪
哈堪尼山歩道分岐
ここから登りにかかる、軌道はさらに延びる
急坂にとりつく

軌道はさらに奥に延びるが、25分の休憩後はいよいよ加里山への登頂開始だ。ここから上の部分は、数年前の哈加縱走時に歩いている。いままでは、崩壊部下巻などの上り下りはあるものの、ほぼ水平に進んできた。それに比べて、とどまらない急登は、やはりつらい。同じペースを守り登っていく。軌道を歩いてた時は、時々木漏れ陽が道を照らしたが、霧が立ち込めてきた。天気予報では午後にわか雨の可能性を示していた。雨にならないといいが。雑木林をひたすら登ること40分、尾根上のコブを越し、一度下って登り返して13時15分、加里山東南峰への分岐点に着く。ここで休憩をとる。




急坂を登る

霧が出てきた

東南峰への分岐部
霧の中を登る
休憩後、先に高度差60mほど下り、山頂に向けて登り返す。濃霧で周囲はよく見えないが、勾配はそれほどきつくないものの、尾根の左右はかなり切り立っている。小さな上り下りが続くが厄介だ。登るにつれヤタケが現れ、霧で濡れた葉がズボンをぬらす。時々風に吹かれた水滴も感じる。小さな岩場を過ぎ、14時23分位置表示東線14号の札を見て間もなく、当ルートの難所大岩場の下部についた。筆者は、登る途中に足がちょっとつり始めていたので、少し休憩させてもらう。


ヤタケの間を下る
岩が出てくる
勾配がきつくなる
岩壁を登る
好天下の前回とは違い、岩は濡れている。滑らないよう注意を払い、岩場を登る。数段に分かれた岩場をよじ登り、少しトラバースしてさらに別の岩場を登る。頂上直下の岩場を登り切り、15時8分に山頂についた。休日の今日は、かなりの登山者が訪れていたはずの山頂は、すでに誰もいない。周囲は霧で遠望がないのは残念だ。山頂はそこそこ乾いているので、雨は降っていなかったようだ。この先、基本下りなのでほっとする。頭が赤い昆虫が多くズボンに止まってくる。蛍だろうか。気温は19度、夏は中級山以上のほうが涼しくてよい。

樹木をつかみ登る
金属ステップが取付られた岩場
山頂直下の岩場
次々と登頂
加里山山頂
岩場を下る

15時25分、下山を始める。多くの登山者が利用するこの道は、路面が削られていたりするところもある。露出した岩などを下り、16時5分分岐へ着いた。右は避難小屋経由で鹿場登山口への道、左にとって下り始める。今までの尾根上とは違い、岩やロープセクションがないので楽だ。杉林の造林道をどんどん下る。16時36分、沢を渡り小休憩をとる。

濡れて滑りやすい岩
分岐は左に下る
杉林を下る
沢を渡る
山腹道を行く
勾配が緩くなった山腹道を進むこと約20分、右に朝歩いた軌道が見えた。合流して少し戻り、鞍部休憩場所に来る。小休憩の後、最後の下り道を進み、17時50分登山口に降り立った。林道を少し下り、駐車場所に着く。先に一人戻ったメンバーがスイカを切って用意してくれていた。着替えなどを済ませ、18時10分林道を下り、途中コンビニに立ち寄り、20時40分に台北に帰った。

朝の軌道が見えた
鞍部から登山口へ下る
登山口が見えた
下山後のスイカは格別😁
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ズボンにとまるホタル? 加里山山頂にて

距離11.2㎞、累計登攀1030m、休憩込みの行動時間約10時間である。コース定数は32となる。最近は、とても暑いので半日で終わる近郊登山であったので、久しぶりの長時間行動となった。加齢も関係しているのか、今回は足がつるといったこともあった。ちょっと残念だが、メンバーが理解してくれたのでとても助かった。

加里山については、まだ東南峰や哈堪尼登山道分岐から先の2キロ足らずの軌道部分が未踏ではある。しかし、森林鉄道軌道跡は、主要な5㎞ほどを歩いているので、それはそれで本来の目的を達成したと思う。一応鉄道ファンである筆者としては、捨て去れまだ残っている軌道を歩くことは、それ自体楽しかった。