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山道でであった野良猫 |
数ヶ月前登山対象の山を探しているうちに、この地を管理する行政機関の
東北角及宜蘭国家風景区Web siteなどで桃源谷を見つけた。場所は、以前仕事で宜蘭に行く途中往復した濱海公路の大里付近である。さえぎるもののない大草原は暑い時期ではたいへんだろうと思い、風がススキの波をたてていく秋まで待っていた。ところが11月になると、雨がずっと降り続き、なかなか実行できなかった。今回行ってみたところ、雨こそ降らなかったが、海側は晴れているものの、草原の広がる山側は霧が去来し、残念ながら大草原を満喫とはならかなった。桃源谷は素顔を半分隠したままだった。
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新北市と宜蘭県にまたがる桃源谷の山塊 |
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ルート図(クリックで拡大) |
台北から宜蘭までは距離がある。今は雪山トンネルを経ていけば近くなっているが、今回登山開始の大渓へは電車で行くと、2時間弱かかる。そこで、うちを早朝6時に出発、台北駅6:40発の電車に乗った。出発前に、天候など状況がリアルタイムでわかる
e政府WebCamのサイトで見ると、大里は天気がよさそうだった。ところが瑞芳あたりでは、晴れていれば見える五分山などはガスの中、双渓まで来ると雨が降っている。今日は、桃源谷は何も見えないのでは、と半ばあきらめかけたが、福隆をすぎトンネルを抜けると、晴れている。桃源谷のある草嶺稜線が西側から流れてくる雲をさえぎっているので、海側は晴れているのだ。
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大渓駅から海を見る |
トンネルを抜けるまでは、予定を変えて雨の草嶺古道でも歩くかと考えたが、青空を見てそのまま大渓まで行き下車する。大渓駅は海の脇にたたずむ無人駅となっている。駅前の濱海公道を大里の方向へ歩き始める。海岸沿いの道からは晴れた空のもと亀山島が近い。内大渓の橋をわたるとすぐに左側に公園があり、奥まったあずま屋の脇から桃源谷への登山道が始まる。ここから桃源谷まで5キロの道のりだ。時刻は9時少し前。はじめは山すそを沿っていくが、もうひとつの小公園からは登りが始まる。今回の最高点海抜544mまでは出発点が海に近いので、まるまるその高度差の登りとなる。さらに海側は急斜面なので、登りは結構きつい。石段の道はよく整備されており、0.5kmごとに里程石も設けられている。
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登山口 |
強い風が吹き抜ける稜線近くは背の低い潅木しかないが、麓は高い樹木が生い茂っている。木漏れ日が差し、風もなく汗が噴出す。登り一本の道は、ところどころ開けた広場やベンチが設けてある。ただ、どこも同じだが座る人はほとんどいないようで、苔むしている。登ること30分ぐらい、振りかえると大渓港や沖には亀山島が見える。さらに登るとあずま屋が高台に設けられている。周囲は樹木が高くしげっているので、海が見えるほか、あまり景観はない。ここからは、山道は草嶺稜線から派生する枝尾根を行く。少しの登り下りを過ぎると、右から旧来の細い土の山道が合流する。さらに登ると、今度は右に蕃薯寮山を右に巻いていく、小道が分岐する。ここまで登りはじめて1時間である。
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蕃薯寮山への登り |
標高456mの蕃薯寮山は、この枝尾根上のピークである。先ほどのまき道分岐から約20分ぐらいの登りであった。時刻は10時15分。ここには三等三角点が設けられている。眺めると登ってきた尾根の向こう側には海が広がり、亀山島が浮かんでいる。反対側を見ると草嶺稜線が見える。谷を挟んで草嶺稜線から石観音山の枝尾根が延びている。草嶺稜線上はガスが去来している。反対側は天気がよくないのだ。
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蕃薯寮山山頂 |
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蕃薯寮山からの眺め、歩いてきた尾根と沖には亀山島 |
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蕃薯寮山からの下り |
蕃薯寮山からはしばらく下り道となる。下りきって登りが始まると間もなく、一匹の猫が走ってやってきた。山道では野良犬は珍しくないが、猫ははじめてである。足音を聞きつけたのだろう。でも、どうしてこんなところに猫がいるのだろうか。この猫、こぎれいだが、観光に来た飼い主からはぐれたのだろうか。ニュアーニャーと、足元にすり寄ってくる。腹がすいているようなので、持っている握り飯を少しわけてやった。その後しばらく後をついてきた。
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登り途中、猫がついてくる |
枝尾根上の道は小さい上り下りがあるが、蕃薯寮山から25分で山腹をまいてくる小道と合流、その少し上には立派なお手洗いがある。さらに進むと、草原に放牧している牛が出れないように山道に柵ができている。ここからなだらかな登り道をしばらくいくと稜線についた。時刻は11時、登りはじめて約2時間である。思っていた通り、稜線の反対側はガスであまり見えない。海側は晴れて、亀山島が見えている。ここを左にいくと、鹿窟尾尖にいく。広場になっており、脇にある苔むした土地公のほこらの上には、コンクリの屋根が作られている。
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牛のための柵 |
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土地公のある稜線の広場 |
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ススキの稜線道、左からガスが昇ってくる |
桃源谷は右に行く。ガスが左の谷側から昇ってきては、稜線にかかると消える。山道はこの稜線上を行くので右は海が見えるが、左側はあまり視界がきかない。これからの行き先も見え隠れしている。稜線の左側はなだらかな斜面でそこに草原が広がる、海側はそれと対照的に切立っている。道の両側はススキが茂っているが、しっかり刈られており、歩きやすい。しばらく登ると桃源谷の最高点(標高544m)の展望台についた。展望台といっても石を敷き詰めた広場になっているだけだ。海側は草があるものの展望が利く。ここからは蕃薯寮山の尾根筋とその先には亀山島が見える。天候は変わりやすく、そのうちガスが多くなり海側を含め視界がきかなくなった。
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右の海側は切り立っている |
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霧の中のあずま屋と登山道 |
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霧の登山道 |
最高点の展望台から下り、登り返すとあずま屋がある。途中には石の柵ができている。あずま屋はガスの中で展望がない。ここで食事をして少し休憩した。稜線の道は草の道で晴れていれば、それこそ快適な歩行だろう。残念ながらガスがかかり、視界が利かない。また道筋もはっきりしないので、注意しないと方向を見失う。かなりぬかっているところもあるので、雨がしばらく降り続いていることがわかる。牛には出会わないが、ところどころ糞がころがっている。石の基点がある禿山をくだると、石観音寺へ降りていく山道の分岐についた。脇には駐車場があり車が1台駐車している。貢寮からは車でも来れるのだ。時刻は12時20分。この分岐点から草嶺稜線を行き、草嶺古道の啞口へと行くことも考えたが、おそらく今日はこのまま天気がよくなることはなく、ガスが去来し視界もきかない草原道はつまらないので、石観音寺登山道を下ることにした。
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石観音寺歩道の分岐点 |
全長3.5kmのこの山道は、大渓からの道に比べると整備度が低い。海岸から石観音寺までの2.5kmの部分は30年前に整備されているので、結構古い。山道の入口には、台風や大雨などで道が壊れることもあるので、寺に行く用事のない者は下らないほうがよいとの警告板がある。実際下ってみれば、それほど悪くはない。ほとんど歩かれていない山の道に比べれば、ずっとよい。石畳が切れて土の道も部分もあり、軽快である。下ること20分で、石観音寺に着いた。途中結構急な階段もある。石観音寺から谷を挟んで、灣坑頭山が大きくそびえている。ガスが稜線を越えると消えていく。実際の標高より、かなり雄大に見える。お寺の飼い犬がけたたましく吠え立てたが、そのうち住職がたしなめて静かになった。しばらくすると、また吠え立てる。2人の登山客が降りてきたのだ。今日の行程中でであった、唯一の登山客だ。朝の電車では、かなり多くの登山客が乗っていたが、ほとんどは貢寮で降りたので草嶺古道へ行ったのだろう。
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石観音寺から湾坑頭山を見る |
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崩落した山道 |
石観音寺は、180年近い歴史を持つ古刹のようだ。この峻険な山に結構大きな規模の寺である。寺からの下り道は、同じく急な下り坂が続く。古いコンクリートの階段は崩れかけているところもある。途中、山道が手すりとともに崩落している場所を通過する。補助ロープが張ってある。ここから、灣坑頭山を眺めると、山腹に滝が2つかかっており、水音が聞こえてくる。寺から下ること30分、沢に降り立ち数十メートルこの沢底を進む。沢釣りをしている釣り客がいる。沢を越えると、今度は別の尾根を登り返す。濱海公道を行く車の音が聞こえ始める。沢から30分、寺から約1時間で石観音寺歩道を下りきり、山門についた。
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下り道から湾坑頭山を見る |
ここからは、濱海公道を左に大里または右に今日の出発点の大渓のどちらへも同じぐらいの距離である。大里へ行くことにする。濱海公道は大型トラックもかなりのスピードで往来するので、あまり歩いて楽しい道ではない。以前は自分も車でこの道を何度通り過ぎたことか。歩くスピードだと、車上からは見過ごしていたものがたくさん見える。車からは注意もしなかったが、左側の山容が立派なことに気付く。稜線は結構上り下りがある。最も低い鞍部は、草嶺古道の峠である啞口だろう。海岸側には花も咲いている。途中浜辺に下りたり、ゆっくり進む。歩くこと40分、大里の老街を通り過ぎ、2時40分に大里駅についた。
大里駅は利用客も多いので有人駅だ。大勢の登山客がいる。聞くと草嶺古道を歩いてきたそうだ。貢寮で下車した小学生の遠足グループもいた。15時16分発の七堵行き電車に乗り、七堵で乗換え台北駅に着いた。時刻は午後5時過ぎ、同じく2時間弱の乗車である。台北駅を出ると、日は暮れ始めていた。
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大里の街 |
今回の登山は全行程13kmあまり、時間は休みも含めて6時間である。海に迫った急斜面の山道で、なおかつほぼ海抜0mからのスタートなので、桃源谷はその名とはうらはらに、登りがいのある山だ。管理する行政機関の整備もしっかり行われており、道自体は状態がよく、明確な道標や説明案内などが設けられている。天気がよいときに、また草嶺古道とあわせて行こうと思う。ただ、今回の登山で結構体力が必要なことがわかったので、草嶺古道とあわせて行くならば歩行距離が結構あり、それなりの心構えが必要だ。