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2021-11-29

台湾高山登山ルートの簡単ガイド  ‐ 番外編

台湾最高峰玉山主峰から中央山脈の最高峰秀姑巒山(中央)を望む、手前は玉山東峰

2024/ 03記事更新

日本登山研修所の機関誌登山研修38号に台湾山岳登山一般の筆者の記事があります

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馬博拉斯橫斷縱走を終え帰宅した後、帰宅後2日目あたりから左ふくらはぎが痛み出した。そのうち良くなるだろう、と思っていたがなかなか良くならない。病院での診察で、ふくらはぎの二つの筋肉で内側になるヒラメ筋がダメージを受けている、ということだ。過度の運動などにより起こるという。九日間の歩行中に痛みを感じることはなかった。発生もゆっくりだということなので、まさに今回の縦走中の疲労がここに出た、ということなのだろう。左のふくらはぎは、9年前に一度肉離れを起こし、長いこと休養を強いられた。

前回の休養の時に、それまでに歩いていた台北周辺の低山登山の経験をまとめ、番外編記事「台北近郊登山についての簡単ガイド」として書いた。その後3000m高山登山ガイドも記した。今回は、数年間歩いてきた台湾高山の登山縦走路について、その実際の登山記録文や高山登山ガイドとは別に、各ルートについて簡単ガイドとしてで整理しまとめる。台湾のいわゆる3000m超高山の百岳は大分歩き、その主なルートも二、三を残して経験した。残っている部分も、いずれこの記事を更新することで全部カバーするつもりだ。もちろん高山は百岳だけではないし、ルートも固定的ものではない。ただ、海外から訪問しあまり歩かれていない高山やルートを歩くことは、少ないはずだ。おそらく、日本から訪れ台湾の高山登山を経験するのであれば、このガイドのルートでほぼ90%以上をカバーすると思う。

欧州アルプスエーデルワイスのなかまニイタカウスユキソウ
台湾島にある山脈は、大きく5つある。そのうち3000m峰を擁するのは、雪山山脈、中央山脈そして玉山山脈の三か所だ。高山ガイドでは地理的な分類で簡単にルートに触れたが、この記事では必要とされる日数や難易度などの点から分類し、日程的に歩けるルートはどこか、その難易度はどうか、という観点から記す。具体的に台湾の高山を登ろうとする場合に、より探しやすいと思う。難易度は、入門者クラス、中級クラス、健脚者クラスと大雑把に3通りに表示する。ここでいう入門者とは登山の入門者ではなく、台湾高山の入門者という意味だ。また距離や昇降高度、コース定数も併記する。入山前に必要な国家公園の入園許可や入山証取得などについては、高山ガイドを参考いただきたい。必要日数は、登山口からの日数なので、アプローチに要する時間は、計画時に各自出発点から必要な日数時間を加算してほしい。登山口付近で実際の登山開始前に一泊が必要な場合も多い。

登山の季節については、日本の高山と異なり冬の積雪が少ない。南部はほとんど積雪もない。台湾の中部以北の中央山脈や雪山山脈、また標高の高い玉山山脈は冠雪を見る。その時期には、それなりの経験と装備などの入山の制限もある。季節としては、南部を除いて春から秋にかけてが無難だ。本来夏は台風が心配だが、最近は夏でも台風の襲来が少なく7,8月の台風時期でも問題ないことが多い。逆にもともと割合と天気が安定していた秋は、長雨になることが多い。その点に注意してほしい。

大霸尖山・小霸尖山を背後に雪山山脈聖稜線を行く
最近は、台湾も登山人口が増加し、国家公園の入園申請が多すぎて宿泊込みの入園許可が下りないなどの理由で、本来二日が必要なルートを午前3,4時或いはさらに早くから歩きはじめ、一日で往復するケースも少なくない。しかし、この記事ではそうした単日歩きについては、記事中で触れることにし、単日扱いのルートとはしない。なお、記事中のコース定数は、日本でも多く採用されている日本鹿屋体育大学山本正嘉教授の提唱するコース定数で、その方法により算出している。ただ、実際の距離や昇降高度は、筆者自身のGPSによるもので、誤差がある可能性がある。また所要時間についても、筆者の休憩などを含んだ時間である。文章中のハイパーリンク(緑文字)は、筆者が実際に歩いた時の記録にジャンプする。各コース詳細、山岳の説明、歴史的な記述や交通手段詳細などは、そちらの記事をご覧いただきたい。

最後に申し上げたいのは、台湾の国家公園管轄内のルートは、特に山小屋について人数制限があるため、できるだけ早く、最良はネット受付開始直後に申請することを勧める。玉山国家公園,太魯閣公園と雪霸公園はすべて二カ月前の受け付け開始時間午前7時(台湾時間)に、前もって準備しておいた申請内容を素早く申し込む。玉山公園の排雲山荘や圓峰山屋は抽選だが、それ以外は先着順できまるので、これが重要になる。台湾登山人口の増加に伴い、特に休日などは定員をはるかにオーバーする希望がある。残念なことだが、現状はこれである。

キンバネホイビイ

〇 単日ルート

1.合歡山主峰 東峰 石門山 入門者クラス コース定数14(三座合計)

夕暮れの合歡山(畢祿山より)
自動車道路として台湾の最高点武嶺を通る台14甲線の両側に立ち、車道脇の登山口から簡単に登頂できるこの三座は、台湾高山登山の超入門ルートといえる。三山はそれぞれに登山ルートがあり、一日で三山を登ることも可能だ。

入園許可や入山証もいらない。観光旅行のついでに登る、なども可能だ。三座のそれぞれは、合歡山主峰往復 2.2km 登坂下降 各203m  1時間10分 コース定数5;合歡山東峰往復 2.3㎞  308m 1時間30分 コース定数7;石門山往復 800m、50m 30分コース定数2である。

コースそのものは上記のように簡単だ。ただし、標高は日本の第二の高峰北岳を越える3200~3400m台の水準だ。冬になれば雪も降る。雨でも風が吹けば体温を奪われる可能性もある。1914年に発生した政府軍による原住民太魯閣族を制圧するための太魯閣戰爭前の1913年3月、地形測量のために入山した政府測量隊はここで春の雪に見舞われ、主に台湾人ポーターが80数名命を落としている。晴れていればとても穏やかだが、決してこの高山の高さを侮ってはならない。

交通手段は、自分で車を運転できればベストだが、バスもある。台北や台中から高速道路経由のバスで埔里へいき、 南投客運6658番などで清境農場へ、そしてさらに南投客運6658A番(予約制)バスに乗り換え登山口へ行ける。ただし、時間を要するので松雪樓などで一泊できれば時間的に楽になる。登山口の間は、バスを待たずに車道をを歩いてつなぐことも可能だ。詳細は南投客運のウェブサイトで最新情報を確認してほしい。

2.郡大山 入門者クラス コース定数19

手前に郡大山、一番奥のピークは西巒大山(八通關山より)
標高3265mの郡大山は、八通關古道の入口東埔の東に高く聳える山である。もし東埔から登るとしたら、標高差2000mを登らなければならない。ところが、標高2800mの地点まで郡大林道を車で行ける。そのため、当座は単日の登頂が可能だ。東埔からも登山道があるが、ほとんどの登山は、林道経由で行われている。

郡大林道登山口から山頂への往復は距離7.1㎞、昇降それぞれ600m、5時間50分である。標高を除けば、近郊登山とほぼ同じような数字である。ただし気象条件は、3000mの高山であることを忘れないように。

アクセスは、四駆車が必要である。ふもと近くの原住民部落望鄉村などの四駆車送迎サービスがある。筆者は望鄉村の民宿に泊まり、翌日このサービスで登山した。望鄉村へは、水里から員林客運6732番バスで行ける。詳細は員林客運ウェブサイトで最新情報を得てほしい。

3.西巒大山 健脚者クラス コース定数43

雲をかぶる西巒大山(最奥のピーク)
上記郡大山と途中に清水山と金子山を挟んで同じ山列の北端に位置する。この山並みは、玉山山脈に分類されるが、玉山の山並みに直接続いているわけではない。陳有蘭溪と郡大溪との間に聳える。西巒大山も、過去には人倫林道がかなり高いところまで通じ、その巒安堂から郡大山と同じように簡単に登頂できた。しかし、林業が去り林道は廃棄され、土砂崩れなどで通行は不能になった。現在は林道途中の17K林務局事務所までは通行可能で、そこから往復するのが普通だ。

往復といっても、少なくとも11時間ほどは必要なので、一般的には登山口近くで設営一泊し翌日早朝に出発する。筆者も登山口近くで設営し往復した。距離12.7㎞、昇降各1610m、12時間半を擁した。多くの登山者は、距離が近い上記の群大山と、ふもとの民宿などで一泊し合わせて登ることが多い。林道は、自分で運転していくか、送迎サービスが必要だ。

この二座を途中の金子山と清水山を経て縦走することも可能だが、訪れる登山者は少なく、登山路もよくない。一方、治茆山をへて登るルートが最近人気を得ている。この場合は少なくとも二日が必要だ。

4.合歡山北峰西峰縦走 中級クラス コース定数37

合歡西峰山頂、背後は北二段の山々
上記1と同じく合歡山の山塊になる当二ピーク縦走は、主峰や東峰のようには簡単ではない。前の晩に登山口近くに宿泊、早朝に出発する必要がある。北峰から西峰を往復することもできるし、筆者のように縦走して華岡に下ることもできる。いずれにしても、長距離でそれなりの時間を必要とする。標高3422mの北峰から3145m西峰へは、基本下り坂で往復するとなると、帰りは上りになる。縦走の場合は、西峰から合歡溪に下るが、大雨の後などは増水し渡渉が難しくなる。渇水期に訪れるほうが安全だ。筆者は、距離14.7㎞、累計昇降1172m、1641m。10時間55分を要した。

交通手段については、上記1と同じでバスがあるが、6658A番バス終点小風口近くに北峰登山口がある。一方、縦走して華岡へ下ると、公共交通手段はないので、少なくともバスのある梨山などまで送迎サービスが必要となる。バスの場合は、時間がかなり制限されるので、北峰近くの小溪營地などで設営し一泊二日にする必要がある。

単日で往復登山されている高峰は、ほかにも桃山,畢祿山,羊頭山,玉山前峰,雪山東峰,志佳陽大山などがあるが、それらは以下の縦走ルートでカバーできる山なので、ここでは取り上げない。

5。南橫三星: 關山嶺山 塔關山 庫哈諾辛山  入門クラス

關山嶺山の登山道上から望む塔關山(左から二番目),庫哈諾辛山(最右)
南橫三星とは、中央山脈南部を越えて台湾島の東西海岸を結ぶ南部橫貫公路(南横公路)上の登山口から、割合と簡易に登頂できる三座、關山嶺山、塔關山及び庫哈諾辛山の三座を指す。南横公路は、大型台風による被害で十年の長きにわたり不通であったが、2022年5月に復旧工事の主要部分が完了し全線再開した。これにより、以前のように公路上にある登山口から3~6時間で登頂下山ができるので、人気を取り戻している。さらに、前二者は玉山公園の入園許可はいらず、入山許可だけで済むので、書類手続きも簡単である。庫哈諾辛山は入園許可と入山許可共に必要である。

所要時間では、關山嶺山が距離が短いこともあり、3時間ほどでOKである。塔關山は4時間、そして庫哈諾辛山は南横公路上の進涇橋登山口からだと6時間ほど必要で最長になる。現状では南横公路の梅山口と向陽との間は、制限区間であり朝7時から夕方17時までの開放で、どちらから入るにしても一日で三座をカバーするのは難しい。したがって、一回の山行で三座すべてを登る場合は一度梅山口などに出て、翌日再度登山口に行く、ということが必要になる。また制限区間は、一週間の内火曜日と木曜日は全日閉鎖されるので、二日連続の場合は、曜日に注意が必要だ。庫哈諾辛山は、すぐ近くの關山と合わせて二泊三日、或いは下記29の南一段の一座として登られることも多い。

交通手段は、梅山口までは高雄客運公司が甲仙から往復している。但しそこから登山口までは、公共交通手段がないので、オートバイやレンタカーあるいはシャトルサービスを用意する必要がある。こちらのほうが、入門コースとしては非登山関連のハードルが高い。各山のコース定数はそれぞれ、關山嶺山10、塔關山15。庫哈諾辛山21、である。

〇 二日~四日ルート

下記のルートは、山中での宿泊が必要となるルートである。山小屋ないしは自分でテントを用意し宿泊となる。

6。玉山主峰 (前峰/西峰/北峰/東峰)二日 入門者クラス コース定数50(主峰往復のみ)

左から玉山東峰、主峰、西峰、背後は玉山小南山(玉山北峰より)
日本から訪れて登る台湾高山は、現在このルートがまず大部分を占めるのではと察する。日本の富士登山と同じ趣旨だ。西側の塔塔加登山口から、排雲山莊へ登り一泊、翌朝ご来光を玉山主峰で眺め、その足で下山というのが一般的だ。日本人は、排雲山莊の外国人枠を申請できるので、抽選で宿泊予約を決める排雲山莊を確保できるチャンスは高い。ただし、この枠は主峰往復を想定した一泊二日の行程だけに適用されるので、さらにもう一泊というのは対応外になる。

一泊でも筆者のように、玉山前峰、西峰、東峰或いは北峰も合わせて登頂することも可能だ。天気が良いのであれば、ぜひ一緒に登頂することを勧める。その場合は、前日に東埔山莊に宿泊し、早朝出発が必要だ。また下山後も遅いので登山口近くでの宿泊が必要になる。

排雲山莊は、なかなかその予約がとれないため、一日で主峰を往復する登山者も多い。その場合も東埔山莊などから、未明3時ごろに出発しまた下山後も宿泊ということになるだろう。筆者は、ふもとの宿泊場所は違うが、当時は排雲山莊の改築工事で泊まれないため、一日で主峰往復をした。主峰往復のみで、距離21㎞、昇降1800m、所要時間13時間半である。。

交通手段としては、日月潭から員林客運6739番バスがある。当バスは阿里山まで運行されているので、阿里山から行くことも可能だ。自分で運転する場合は、東埔山莊もまた登山口近くにも駐車場がある。

7.北大武山 二日 入門者クラス コース定数62

北大武山の神社
北大武山は標高3092mを有し、台湾最南端の3000m峰である。最近は単日往復もあるようだが、一般的には二日で訪れることが多い。登山口から檜谷山屋へ行き一泊、翌早朝に軽装で登頂し、檜谷山屋からまた重装で下山できる。檜谷山屋申請は、多くの申し込みがあるのでなかなか下りないことが多い。ただし、小屋の周りには協作と呼ばれる業者がテントを貸出し、また食事も提供しているので、装備を減らして登山することもできる。登山口へのアクセスは、公共交通機関はないので、車で行くか送迎サービスになる。距離約23㎞、昇降各2000mである。所要時間は19時間だ。

コースそのもには、困難点はない。道筋は明瞭だ。少し岩のセクションがあるぐらいだ。位置的に南台湾なので、冬でも積雪はなく、また雲海が広がりやすく雲上の漫歩を楽しめる。ほとんどの登山者は山頂を登山口から往復する。。さらに山頂から北へ、或いは南の南大武山への縦走も可能だが、それは健脚経験者向けだ。台湾の高山につきもののヤタケ藪漕ぎや倒木などの経験がないと、道に迷う恐れが大きい。

8.雪山東峰主峰(雪山主東コース) 二日~三日 入門者クラス コース定数55

雪山東峰と主峰(品田山より)、背後は中央山脈
このルートは、雪山山脈登山の入門コースともいえる。武陵農場の登山口から、雪山東峰を経て主峰を往復する。途中には七卡山屋と三六九山屋がある。後者は、建て替えが始まり、ここでの宿泊はテントが必要になる。進捗状況を確認し、完成すれば以前よりよい小屋に泊れる。 多くの場合、武陵農場登山口を早朝に出発、三六九山屋(現時点はテント泊)に泊まり、翌朝主峰を登頂後下山という二日の行程だ。上記の筆者のように、第一日目は台北を午後に出発、夜道を七卡山屋にいき宿泊する二日半の日程もできる。距離約22㎞、累計昇降各約1900m、所要時間15時間半である。

雪山主峰は、日本時代次高山と呼ばれた、玉山主峰につぐ台湾第二の高峰である。玉山と同じように、多くの登山者が目指す人気ルートだ。そのため山小屋の申請がポイントである。 雪霸公園申請開放後早く申し込む必要がある。交通手段としては、國光客運が宜蘭と梨山とを結ぶ1751番バスや羅東から梨山への1764番バスが午前と午後にそれぞれ一便通る。また武陵農場から登山口までは、農場が運航するバスがあるが、これは予約制なので事前に農場に連絡しておく必要がある。

9.奇萊山主峰北峰(奇萊主北コース) 二日~三日 中級クラス コース定数66

奇萊北峰(左)と主峰(奇萊南峰より)
上記1の合歡山の近くに、立霧溪の谷を挟んで並ぶ奇萊山主峰と北峰を登るコースだ。台湾では、その昔大学生の遭難事件がセンセーショナルな報道で、危険な山という一般の印象があるが、コースそのものには難しいところはない。しいて言えば、北峰の上下で急な岩場があるくらいだ。距離21㎞、累計昇降各約1600m、23時間半の行動時間だ。

一般的には、登山口から成功山屋へ登り、翌朝早く軽装で二座を登り、その足で下山というのが多い。筆者のように稜線上の奇萊稜線山屋に宿泊して、ゆっくり満喫するのも可能だ。ただし、最近は希望者が多いので太魯閣公園の予約確保は大変だ。成功山屋は協作が食事やテントを提供している。交通手段は、上記1と同様にバスが登山口近くの松雪樓まである。

10・奇萊山南峰.南華山(奇萊南華コース)二日~三日 入門者クラス コース定数70

草原山頂の奇萊南峰,南華山(能高南峰より)
上記8と同じ奇萊山の名前を冠するが、南峰は北にある二座とはずいぶん性格を異にし、穏やかな草原のピークである。途中に卡羅樓斷崖があり、この二つの領域を縦走するには、それなりの経験が必要だ。一方能高山北峰という呼び方もある南華山も同様に、たおやかな草原の山である。二座の近くには、能高越嶺古道が通り、その西側には天池山莊がある。古道もまた登山道もとても状態が良く、山小屋では協作による食事もあるの。そのため、このコースも台湾高山入門ルートとして多くの登山者が訪れる。距離は古道歩きが長いので合計40㎞、昇降各約2300m、所要時間18時間半である。

一日目屯原登山口から天池山莊に入り一泊、翌日二座を巡ってそのまま下山できる。筆者のように、再度山小屋に泊まり三日目に下山すれば、ゆっくりと山を堪能できる。ただ、天池山莊は、宿泊希望者が多く休日などは予約が難しい。協作がテントを提供しているので、そちらに泊まるのも方法の一つだ。交通については、廬山溫泉までは南投客運6660番バスなどがあるが、その先屯原登山口まではないので廬山溫泉民宿などの送迎サービスを使う必要がある。車で行けば、登山口近くの駐車場に駐車できる。

11・屏風山 二日 入門クラス コース定数59

屏風山、左は畢祿山(小奇萊山より)
屏風山は奇萊北峰の北に延びる稜線上にあり、横から見ると屏風のように続き立霧溪の谷に落ちる。当座も単独で登ることが多い山だ。登山口から、未明に出発して一日で往復する登山者も多いが、キャンプ地の松針營地はすぐわきに立霧溪の源流が流れ、とても気持ちのよい場所だ。時間に余裕があればぜひゆっくりしたいものである。三日あれば、なおよいだろう。

中横公路の大禹嶺からいったん谷を下り一泊して、翌朝山頂を往復、撤収してまた大禹嶺に登り返す。中横公路から谷に下る道は、さらに太魯閣、花蓮側に下ったところから新しい道が開かれたという。交通手段としては、花蓮から太魯閣を経て梨山へ往復する花蓮客運1141番バスが大禹嶺を通る。ただし、便数が少ないので自由度は高くない。

12.能高越嶺古道 二日 中級クラス コース定数73

光被八表石碑
日本時代に理蕃政策のもとで切り開かれた、能高越嶺警備道路は、戦後台湾東側の水力発電でできた電力を西側に送る送電線がこの古道にそって敷設され、その保線路として利用されてきた。一時期、東側が台風による大きな被害で封鎖されていたが、再開され中央山脈を越える登山を行える。日本時代も高山ハイキングとして、多くの人に歩かれた歴史的な道だ。

西側からも東側からからも入れる。途中天地山莊などに宿泊し、上記9の奇萊南華二座を登り、その後檜林保線所に泊まって、翌日下る三日の日程も単に古道だけでなく同時に山頂に登ることも可能だ。距離36.1㎞、累計登坂2597m、下降3282m、所要時間19時間である。

交通については、西側は上記10と同じ、東側は天長隧道からは送迎車が必要だ。これは事前に連絡しておく必要がある。

13.白姑大山 二日 中級クラス コース定数63

白姑大山(合歡西峰より)
白姑大山は、雪山山脈の南に大甲溪を挟んで聳える独立の3000m峰連山である。日本時代には、三大林業地である八仙山林場が開かれ、その後民国政府に受け継がれて経営された。当時は山頂近くまで、木材運搬用の森林鉄道がとどき登山はそこから簡単に登れた。林業が廃れたのちに中央横断道路からの道が開かれたが、それも台風の被害による中央横断道路閉鎖により登れなくなり、今日の力行産業道路上の紅香部落からの登山道が現在のルートである。

一般的に、登山口から三錐山をへて松針營地や司晏池營地で設営一泊、翌朝登頂後そのまま下山というパターンである。 未明3時頃から出発し一日で往復する登山者もいるが、それなりの体力が必要だ。白姑大山登頂後、さらにもう一泊するれば、かなり楽になる。力行産業道を行く一般交通機関はなく、自分で運転するか送迎サービスを利用するほかはない。距離は18.1㎞、累計昇降各約2200m、所要時間19時間15分であった。

14・畢羊縱走(畢祿山/羊頭山) 二日 中級クラス コース定数58

畢祿山と鋸山(鈴鳴山より)
台湾中央山脈のいわゆるセクション分類としては、北二段になるが、一般的にはこの二座だけを縦走するため、畢羊縱走と称される。畢祿山は大禹嶺から820林道を経て取りつき、一方羊頭山は、中橫公路の慈恩近くの登山口から取りつく。ともに単独で一日で往復する登山者も多いが、筆者のように縦走も十分可能で、尚且つ鋸山を越えるおもしろいルートになる。

畢祿山から入る場合は、早朝大禹嶺を出発、820林道の最後の水場で水を補給し、稜線に登る。山頂近くにあるテント場で設営する。ここは水場がないので水を下から持ってくる必要がある。翌日は鋸山を越えて羊頭山を登頂し、下山する。林道最後の水場近くで設営し、翌日は鋸山東峰近くのテント場で設営し、三日目に下山とすれば余裕の日程になる。最近鋸びり山東峰近くに避難小屋が設置された、ということなのでさらに便利だ。距離20.1㎞、累計登坂1503m、下降2373m、所要時間19時間半である。

交通手段としては、上記11と同じで花蓮客運1141番バスが大禹嶺も慈恩も通るので利用できる。ただし、便数が少ないので自由度は高くない。

15.嘉明湖.向陽山.三叉山 二日~三日 入門者クラス コース定数71

早朝の嘉明湖
天使の涙というキャッチフレーズで、多くの登山者を引き付ける嘉明湖は、中央山脈南二段の三叉山の緩やかな山腹にある台湾最高位置の池である。後述の南二段縦走新康橫斷縱走でもこの池の脇を過ぎるので、その縦走をすれば当然訪れる。ただ、ともに長期縦走なので、単独に嘉明湖と向陽山や三叉山を巡るコースが良く歩かれている。台湾高山ルートでは、人気が非常高いルートだ。

以前は、向陽森林遊樂區からスタートし、嘉明湖山屋で一泊、翌日嘉明湖などを訪れ下山というパターンが多い。この場合は距離31㎞、昇降各約2440m、所要時間20時間だ。ところが、あまりの人気に嘉明湖山屋やその下の向陽山屋が常に満員で予約が取れず、戒茂斯山を経由する別ルートが多く歩かれるようになっている。こちらは、山小屋はないが、登山者が多いので協作が途中のテント場にテントを半永久的に設営し、食事を含めたサービスをしている。同じく二日で往復可能だ。後述する新康橫斷縱走の際には、こちらから訪れた。

南横公路を向陽森林遊樂區まで行くバスなど、定期運航の交通機関はない。池上や玉里から送迎サービスを利用するのが一般的だ。

16。大劍山.劍山.佳陽山(大小劍コース)三日~四日 健脚者クラス コース定数95

三座を含む朝の雪山南稜(合歡北峰より)
雪山主峰から翠池をへて南に伸びる雪山南稜の南端にあるこの三座は、もちろん雪山主峰からの縦走も可能だが、このまとまって聳える三座だけを登山口から登頂往復するコースで多く歩かれている。台7甲公路の環山村のさらに下にある、松茂林道から入り天梯登山口から長い尾根を登る。推論山を越え油波蘭營地で設営一泊し、翌日は佳陽山と劍山を一日がかりで往復し一泊、三日目は大劍山を登った後、撤収下山というのが普通だ。第一日は大変な登りなので、前日午後に松茂林道の文水站無人建物や登山口で一泊し早朝に登山開始が必要だ。距離45.8㎞、累計昇降各約4300m、所要時間39時間である。

交通手段は、8と同じように國光客運1751番バスや1764番バスが林道入口近くを通るので、利用できる。あるいは、台北から送迎サービスを利用、或いは自分で運転し、林道の行けるところまで進み駐車し往復も、もちろん問題ない。

17・雪山主峰-志佳陽山縱走 三日 中級クラス コース定数72

雪山主峰から志佳陽へ下る稜線(雪山東峰より)
志佳陽山は、多くの登山者は単日で往復することが多く、このように縦走するのは逆に少ない。日本で高山縦走を多く経験している登山者は、8のような山小屋利用の人気コースでの雪山登頂では飽き足らない場合、このルートをお勧めする。日本時代の雪山登山は、志佳陽山経由で行われ過去には山小屋もあったルートである。雪山主峰を下り、日本時代の山小屋跡に設営をすることになる。筆者は、第一日は七卡山屋に泊まり、二日目は主峰を越えて雪山南峰下の山小屋跡キャンプ地で設営、三日目に台風の中を志佳陽山を越えて下山した。距離21.5㎞、累計登坂2217m、下降2824m、所要時間23時間半である。最近、志佳陽山山頂に近い瓢箪池の山小屋が改築され、より便利になっている。

交通手段は、上記8や16と同じで國光客運のバスが利用できる。自分で運転する場合は、出発点と下山点が異なるので、かえって不便だ。それでもバスで武陵農場に帰り駐車してある車を拾うということもできる。

18.八通關経由玉山主峰/北峰 三日~四日 健脚者クラス コース定数114

八通關と背後の玉山(右が北峰、左の岩峰が主峰)
日本人が玉山を登山する場合、ほぼ全部が6の西側塔塔加登山口から登っていると思う。その意味では、このルートは一度玉山に登ったことのある登山者の第二のルートという位置づけになるかもしれない。しかし、日本時代の新高山(玉山)登山は、こちらがメインであった。距離49.3㎞、累計登坂3485m、下降3516m、所要時間35時間である。

筆者は東埔から往復とも八通關古道を経由して登山をしたが、西側にぬけて塔塔加登山口へ降りることも可能だ。その場合は三日で歩き終えることができる。往復するにしても、三日目に登頂後、そのまま東埔へくだることもできるが、少しきつい日程となる。交通については、水里から員林客運6732番バスが東埔へ運航されている。ただし、台北などから出発する場合は、車で直接行くのに比べ、乗り換えなど多くの時間がかかるため、当日の行動時間が少なくなる。帰りも同じである。日程に関し、登りはじめや下山後到着時間などに注意が必要だ。

19.武陵四秀縱走 三日 中級クラス コース定数101

武陵四秀、左から品田、池有山、桃山(雪山東峰より)
二泊の日程中ともに山小屋を利用できるこのルートは、台湾高山縦走の入門的な位置づけである。先に品田山を行くのも桃山を行くのも、ともに問題ない。出発点の武陵山莊からの登りは、ともに同じように1100mぐらいの落差を一気に登る必要がある。新達山屋も桃山山屋ともに、雨水をためて利用する。そのため、晴天が続き水が少なくなることもある。事前に確認し、必要があれば下から持ち上げることも必要だ。距離28.1㎞、累計登坂2866m、下降2964m、所要時間34時間40分だ。

交通手段としては、上記8のように武陵農場へはバスがあり、そこから先は農場のバス利用ができる。自分で車を運転し武陵農場まで来ることも可能だ。

12,南湖大山四山コース 四日 中級クラス コース定数112

南湖大山主峰(審馬陣山付近から)
中央山脈の最北端に位置する3000m峰南湖大山とその近辺の高峰は、中央尖も含め北一段とセクション分けされる。そのうちの南湖大山、東峰、南湖北山、そして審馬陣山を往復するルートである。ルート上には、雲稜山莊,審馬陣小屋,南湖山屋がある。このコースは人気コースであるので、小屋の予約を確保するのはちょっと大変だ。もし小屋が取れない場合は、協作が提供するテントを利用するのも方法だ。登山口は710林道と勝光山経由の二つがある。筆者は710林道から入り、勝光山登山口に下った。距離約40㎞、累計登坂3520m、下降3655m、所要時間35時間である。

筆者は、本来この四山以外に百岳である馬比杉山や南湖大山南峰,巴巴山を訪れる予定で六日の予定で行ったが、天候が良くなく後二座は諦めた。これ以外に中央尖溪の谷に下り、中央尖を登ってぐるっと一周する縦走は北一段縱走路として歩かれている。その場合は、一般的には六日の日程だ。

交通については、このコースも台7甲線上にある登山口から登るので、この沿線の山と同じに國光客運のバスが使える。便数による制限も全く同じだ。車で登山口を往復するのは、もちろんか問題ない。

〇 五日以上ルート

以下のルートは、長期の日数を要する縦走ルートである。長いだけに日数については、もし体力がすぐれているのであれば、短縮も可能である。ただし、歩行時間が長く山を楽しむという意味では、少し犠牲になるかもしれない。

21.雪山西稜縱走 六日~七日 健脚者クラス コース定数180

雪山西稜の山並み(左端は大雪山、右端は火石山、大劍山より)
雪山山脈は、主峰を中心として東西南北に長い尾根を延ばす。そのうち南西へ長く伸びる尾根を雪山西稜と称し、主峰以外に主要な四座を越えて歩く縦走が雪山西稜縦走である。ルート上には、翠池山屋があるが、その他はすべて自分でテントを用意する必要がある。一般的には、北側から上記7の雪山東峰ルートで主峰に登り、南に縦走する登山者が多い。筆者は、その逆方向で縦走した。もちろん、17の志佳陽山経由で主峰に至る或いは下ることも可能だが、難易度は一段上がる。距離は72.4㎞、登坂5612m、下降5990m、所要時間55時間である。

北側の登山口へのアクセスは8や16と同じだ。一方南側は、大雪山森林遊樂區になる。こちらは豐原客運の252番バスが、休日に限り東勢から運行している。その他は送迎サービスを利用する必要がある。

22.聖稜線縱走 六日 健脚者クラス コース定数144

聖稜線(左端に大霸尖、右端に雪山主峰、火石山より)
反対側からの聖稜線(左端に雪山主峰、右端に大霸尖)
雪山山脈主峰から北に延びる、雪山山脈主稜線である。標高もほかの当山脈内の稜線に比べて高い。北側には、独特な形状で世紀の奇峰と呼ばれる大霸尖山がその北端に鎮座する。稜線中には、シミタ(素密達)断崖があり、当ルート上の最大難所である。当断崖で滑落死亡事故もあり、最近日本の山でも見られるように金属梯子が取り付けれられた、という。ルートとしては、大霸尖山のさらに西北西に伸びる稜線上の加利山や伊澤山,また大霸尖山の西に聳える独峰小霸尖山などを歩く。

筆者の記録は、シミタ断崖を通過する際、メンバーのザックを遺失するという事故があり、その後本来の予定の主峰を登らず三六九山屋に降りたため、通常の聖稜線ルートに比べると短い。その記録では距離51.1㎞、累計登坂4078m、下降3953m、所要時間47時間20分である。したがって、全線を歩いた場合、各数字が上がる。コース定数も160台ではないかと思う。

ルート上には山小屋があり、宿泊に関しては優れている。北側の九九山荘から始まり、霸南山屋,素密達山屋,雪北山屋などがあり、縦走に対応している。主峰へのアプローチあるいは、主峰からの下山は上記21と同じで、雪山東峰、或いは志佳陽山経由で対応する。

なお、大霸尖山は人気のある山で、聖稜線縦走ではなく、觀霧登山口から往復する登山者が多い。その場合は、九九山屋に宿泊で二泊三日で歩ける。觀霧登山口は、台湾好行バスの運行が始まり、高鐵新竹駅、或いは台鐵竹東駅から乗っていけるようになった。

23.北二段縱走 四~五日 健脚者クラス コース定数149

北二段 中央が無明山(桃山より)
中央山脈の中央尖の南から始まるいわゆる北二段の山は、その位置や標高などからあまり注目を浴びる山ではない。しかし、崩壊が激しい無明山など、そのアプローチやルート上の難所から、登頂するのは簡単ではない。台7甲線の環山部落近くにある730林道を経て入山し、下山もこの林道である。このルート上の鈴鳴山と閂山の二座は、同ルート上のほかの二座に比べずっと優しいので、この二座だけを登る登山者も多い。その場合は、二日ないしは三日で対応できる。廃棄された林業時代の小屋があるが、テント持参のルートである。筆者は、メンバーの一人が具合がよくなく、予定より一日多く時間を費やした。距離は50.3㎞、累計登坂4188m、下降4192m、所要時間49時間半である。

中央尖山頂から南へ北二段の甘藷山までの間には、死亡稜線と呼ばれるガラガラの崩壊が激しい稜線がある。最近は歩く登山者が多くなっているが、このルートはかなりの経験者向けである。名前の通り、ここでは死亡遭難事故が発生している。一般的には、甘藷山まで行きそこから下山している。

交通に関しては、台7甲線近くの登山口なので16,17などと同じに國光客運のバスで行ける。ただしバス停から730林道の登山口までは距離があるので、民宿王小明登山協助站が提供する送迎サービスを利用する。自分で730林道を行く場合は、四駆車でないと無理だ。

24・能高安東軍縱走(北三段) 六日 健脚者クラス コース定数182

草原の目立つ能高安東軍縦走の連山(火山より)
割合となだらかな山容で草原が広がる光頭山、白石山や安東軍山に、険しい能高山や能高南峰と、その大きな対比が特徴のルートである。台湾最大草食動物である水鹿が多く現れる。全ルート中には、天池山莊を除いて山小屋はないので、基本テント持参のルートだ。多くは、北側能高古道からアクセスし、南へと縦走し奧萬大森林遊樂區へ下山する。筆者は、それを逆コースで歩いた。逆コースの場合は、上りが多くなる。距離62.7㎞、累計登坂5695m、下降4787m、所要時間57時間半である。

北側は、能高越嶺古道なので交通手段については、上記10や12と同じだ。南側の奧萬大森林遊樂區は、南投客運が紅葉時期(10月から翌年3月)の土日に限り予約制でバスを運行している。あるいは、送迎サービスを利用することになる。

25.南二段縱走 八~九日 健脚者クラス コース定数225

峰々が幾重にも重なる南二段,中央の高い山が雲峰(大水窟山より)
当ルートは、山岳としては雲峰を除いては、それほど目立つ山は少ない。しかし、全ルート中には、すべて山小屋がありいつの季節でも、また天候が悪化しても、比較的安心して歩けるルートである。一旦入山し、3,4日目の中間地点から下山する逃げ道はないので、問題ある場合は引き返すしかない。これは、台湾の長期縦走コースすべて同じである。

多くの登山者は、南側向陽から入山し、北側東埔へ抜ける。筆者はその逆方向で歩いた。いずれも問題はない。ただし逆コースは、順コースに比べ登坂が1000mほど多くなる。また、日数的には八日で歩き終える場合が多い。筆者は初日は登山口近くの民宿泊予定を取りやめ、先に登山口から近い山小屋に宿泊したので結果的に一日多い九日となった。距離は86.9㎞、累計登坂7872m、下降6607m、所要時間64時間半である。。

交通手段については、北側東埔登山口は、18と同じである。南側向陽登山口については、14と同じだ。

26.奇萊東稜縱走 六~七日 健脚者クラス コース定数183

奇萊東稜の峰々(奇萊主峰より)
奇萊北峰から東へ花蓮の太魯閣へと延びる長い支稜を行くルートである。ニイタカヤタケが密生し、藪漕ぎを強いられる。奇萊北峰からは基本下りだが、途中にはいくつもの越すべきピークや難所がある。ほとんどの登山者は、西から東へと縦走する。逆走も可能だが、登坂は2000mほど多くなる。一般的には六日で歩くが、筆者は一日多く費やし余裕があった。山小屋は西側奇萊北峰近くにはあるが、その他はすべてテント対応が必要。距離86.8㎞、累計登坂4092m、下降4732m、所要時間63時間である。

交通については、西側は8と同じ、東側太魯閣については、302番バスや310番台灣好行バスがある。送迎サービスを利用すれば時間制限がなく、楽である。

27.干卓萬縱走 五日~六日 健脚者クラス コース定数135

干卓萬の山並み(安東軍山より)
中央山脈北三段安東軍山の南にある草山からかろうじて火山へと西へ尾根が続いているが、その周辺を谷に取り囲まれ、ほぼ独立の山塊として存在する3000m峰群である。地理的には中央山脈に属するが、登山でもこれだけを単独に扱っている。途中には干卓萬斷崖や十八連峰などの難所があるが、変化に富むルートでもある。山小屋はない。距離41㎞、累計登坂3722m、下降4759m、所要時間約46時間だ。

登山口へのアプローチは、ともに一般交通手段はない。送迎サービスを利用する。我々は第一日を萬大林道の廃棄小屋で過ごし一日としてカウントしたが、林道に入る前の小学校などを借りて設営すれば、行程は五日となる。

28.新康橫斷縱走 六日~七日 健脚者クラス コース定数182

新康橫斷の山並み(馬利加南山付近より)
中央山脈南二段の南端三叉山から東へ伸びる尾根を行く。その東端には他を抜きんでてひときわ目立つ新康山が独特の形状を見せる。下って八通関古道へ降りる。日本時代に開鑿されtた八通関古道を一日がかりで歩き、縦走を終える。越える百岳は二座だけだが、十分に台湾高山の醍醐味や古道の歴史を感じられる。向陽遊樂區から入れば、二か所山小屋があるが、基本は自分のテントで対応が必要。距離76㎞、累計登坂5618m、下降7110m、所要時間55時間半である。

筆者は、七日で歩いた。そのため、時間的にはかなり余裕があり山上での時間を満喫できた。急ぐ登山者は五日で終えている。登山口へのアクセスは、西側は南横公路上で、14と同じ、東側台30線終点は、一般交通機関はない。送迎サービスを利用する。

29.南一段縱走 六日~七日 健脚者クラス コース定数166

早朝の南一段、最右が關山(三叉山より)
台湾最南部に連なる3000m峰を行くルートである。台湾山岳南部の盟主關山を除き、ほかの峰々はそれほど高度差はない。ニイタカヤタケが多く、雨がふると藪漕ぎは泳いだように、びっしょりになる。筆者は、一般の六日の予定で入ったが、進行状況をみて、予備日として見ていた日を加え七日で歩いた。台湾南部の高山は冬でも雪はなく、天候も割合と安定している。ルート上の山小屋は一か所のみだ。距離は約49㎞、累計登坂4963m、下降5438m、所要時間54時間だ。

登山口へのアクセスは、北側南横公路は途中まではあるが、登山口まで行く定期運航のバスなど交通機関はない。また南側藤枝林道も同様である。送迎サービスが必要だ。また藤枝林道は四駆車でないと、通行できない。

30.馬博拉斯橫斷縱走 八日~九日 健脚者クラス コース定数222

馬博拉斯橫斷の山並み(連理山付近より)
中央山脈の最高峰秀姑巒山と二番目の馬博拉斯山を越え、中央山脈を横断するルートである。上記28の新康橫斷の峰々とは谷を挟んで並行する。雲海が谷を埋めることが多く、ともに雲上を行く軍艦の如くだ。ルート上には、ウラモン(烏拉孟)斷崖の難所がある。天候が悪くなければ、経験者にはそれほど困難ではない。ルート上、山小屋が5か所あるので、とても助かる。ただし、ない宿泊地もあるのでテントは必要だ。

アクセスは、西側は東埔で、上記17と同様。東側中平林道は、四駆車の送迎サービスだけである。距離81.6㎞、累計の昇降高度はそれぞれ6582m、6488mである。所要時間は71時間だ。

31.O型聖稜線縦走  四日~五日 健脚者クラス コース定数111

北稜角直下から北に伸びる聖稜線、右奥に品田山から桃山へ稜線が分岐
22の聖稜線縦走と一部同じく雪山主峰から北に伸びる聖稜線を歩くコースである。ただし、途中布秀蘭山から東に分岐する武陵四秀の一座品田山へ伸びる稜線を行く。したがってI型聖稜線と呼ばれる22番と比べると、聖稜線の部分は少なく大霸尖山へは登らない。しかし、品田山はシミタ(素密達)断崖と同様、或いはそれ以上に困難な品田断崖を通過する。ともに死亡を含めた遭難事故が起きている。

一般的には、武陵四秀側から入り、南へ縦走するケースが多い。この場合は二か所の断崖はともに下りになる。特に品田断崖ではこの下降で多くの事故が発生している。登りにとるほうが実は通過がしやすい。日数的には、四日また体力的に自信があれば三日でも可能だ。但し、ゆっくりと眺め楽しむとういうのは難しいかもしれない。アクセスは、雪山主東ルート(上記8)および武陵四秀(上記19)と同じで、バスでのアクセスができる。但し、武陵農場のバス停から雪山登山口、或いは武陵山莊までは距離があるので、別途手配が必要である。筆者の記録は、距離33㎞、上昇3041m、下降3133m、所要時間48時間でコース定数は111であった。

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以上、筆者が実際に歩いた高山ルートについて簡単に記述した。詳しい内容は、各登山記録を参照されたい。上記のルートは、ほぼ固定的なルートがほとんどだ。それ以外に、あまり歩かれていない山を合わせた歩き方や、二つのルートをつなぎ合わせて歩くなど、いろいろなバリエーションはできる。

高山に咲くシャクナゲ
台湾の高山を歩き日本の高山と比べると、無雪期に限って言えば、台湾高山は日本高山より挑戦的だ。道の良しあし、山小屋の完備度、スケールの大きさ、どれもそうだ。いみじくも、昭和12年に台湾の高山を訪れた白馬岳山麓の登山ガイド丸山静雄は「台湾の山は山が高いが故か非常に大きいように思う。内地の日本アルプスの山などは公園の中の山で、台湾の山は山の中の山だ」と語っている。時代は経て、台湾の山もアクセスが当時に比べれば飛躍的によくなっている。しかし、日本の山も利便性が高まっている。その相対的な差異は、今になっても変わらない。八、九十年前台湾アルパニズムの黎明期に、日本人の先輩登山者が情熱をもって接した山々がそこにある。日本の高山に飽き足らない登山者よ、台湾の山にその情熱を大いにぶつけてほしいと思う。

夜行性の台湾最大草食動物水鹿

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