獅仔頭山は台北付近にある五つの一等三角点のある山ひとつである。その日本統治時代の歴史的背景や台北から見ての位置からして、長く登ることを考えていた山だが、なかなか実行に移せていなかった。おそらく、この山は新店区役所からの
無料シャトルバスで登山口まで行くと、この山だけでは登山行程としては短いこと、さりとてこのバスで行かなければ結構の登りが必要だが、バス運行は週末に限られることが、その原因であった。いざ行ってみれば、どうしてもっと早く行かなかったのかと思う。
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台北の南に位置する |
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古道部分は記録無し(クリックで拡大) |
自分の山登りのパターンは、いろいろなところを見ていきたいので、入口と出口を別々にして登山ルートを選んでいる。今回も、獅仔頭山からどこへ抜けるかということを探ったところ、交通の便などを考えると、大丘田山を経て十七寮山への稜線を行き錦繍へ出るのがよいのでは、ということで出発した。ところが、粽串尖 への分岐から先はあまり歩かれておらず、とくに大丘田山の手前の廃棄された住宅開発のための土砂崩れ防止コンクリート壁から、この山の登りに取り付くところで、密生した竹やぶに道を阻まれた。鎌などもなく、また単独行では無理と判断して、そこから折り返し、結局出発のときと同じ獅仔頭山登山口に戻った。予定のルートが歩けなかったのは残念だが、非常によい天気で景観にも恵まれ、それはそれでよかった。
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峠の登山口 |
獅仔頭山は、台北の市街から見ると、ちょうど南になる。近くには秀岡山荘など大きな山腹住宅開発が行われ、中学校などもある。その点では人里が近い感じだが、実際歩いてみると山深い。6月に登った天上山から谷を挟んで見える獅仔頭山は、こうした住宅群はなく奥深い山に見えた。
休祭日に運行されている新店区役所からのバスは、朝6時40分発のあと8時半になる。その一番バスに間にあうように、うちをまだ明けきらない6時前に出発した。バスとMRTを乗継ぎ新店区役所駅で地上に出ると、幹線道路に沿った区役所前には大型バスが3台ほど停まっている。どこがこのシャトルバスの乗り場かと思ったが、そこに並んでいた登山客がこの場所で待っていればよい、と教えてくれた。果たして40分には中型のシャトルバスがやってきた。乗客は自分もいれて7人、全員乗り込むと出発した。バスは、途中の集落で一人下車し、そのあと高度を大きく上げ、7時10分に登山口である峠に到着した。
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新店と大台北華城の山腹住宅群、台北101ビルが頭を霞の上に出している |
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観獅坪と獅仔頭山 |
朝早いので、光線の角度がまだ低い。登山口脇の展望台から見える台北の市街は霞の中である。台北101ビルはその霞から頭を出している。多くの住宅が山腹に建つ塗潭山の向こうに陽明山の山々が並んでいる。東には二格山、そのさらに遠くには四分尾山、姜子寮山、五分山の山塊が見える。身支度をして、登り始める。途中、歩道の整備用の木材などがたくさんおかれている。20分足らずで観獅坪の広場に着いた。ここはそこそこの大きさの広場で、前には獅仔頭山が大きくそびえている。台北県県定古跡新店獅仔頭山隘勇線と記された大きな石碑が建てられている。この広場のふちに設けられている展望台からは、これから歩く予定の大丘田山の山腹やそこに多く残されている土砂防止壁が見える。
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登りの途中から観獅坪を見る、前にかすむ山は猴洞尖 |
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木製梯子 |
観獅坪からは右に、獅尾登山口へとつながる山腹をまいていく古道と、左に別の登山口への道が分岐する。獅仔頭山の頂上へは、はじめは木製階段を登る。この斜面は非常に急なため、階段を登ると、ほとんど垂直の壁に木製の梯子が取り付けられている。この梯子は全部で3つあり、途中には景色を見ることができる踊り場もある。踊り場からは先の観獅坪が下に見える。その向こうには朝日の中に猴洞尖が控えている。180度の展望が利く。登りきると、クスノキと説明文がある。日本統治時代初期に、樟脳をとるためにクスノキを多く植えたが、そのために原住民との衝突が発生し、ここがその争いの最前線となった由縁を説明している。このクスノキ自体は樹齢100年とある。
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防蕃古牌 |
ここから間もなく獅仔頭山最高点(標高862m)につく。時間は8時少し過ぎ、登山口から50分ほどである。登山口は標高646mあるから、200mちょっとの登りだ。脇にある展望台から見える景色は観獅坪と同じような範囲だ。獅仔頭山の周りには、統治時代の遺跡が残っている。先にそれらに立ち寄っていく。まず分岐を左にとり、防蕃古碑に向かう。この石碑は樟脳の生産に従事した台湾製脳合資会社のため、1903年にそれまでに殉死した軍人警察官などの名を記した碑である。この本来の石碑のコピーも作られ整備されたテラスの脇にすえられている。この辺はツツジが多くあるそうで、春であればもっときれいだろう。
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石屋の遺跡 |
ここから南獅仔頭山へと続く縦走路と分岐し、次の遺跡に向かう。谷を下り小さな沢を過ぎ登り返すと、警察官駐在のための石屋跡についた。原住民からの攻撃に備え、銃座や入り難いように角度が着いた入口などを設けた石造りの建物があった。沢が近いのでこの場所が選ばれたのだろう。遺跡には保護屋根も設けられ、立派なものとなっている。ここからは、直接小土匪洞を経由して下山もできるが、まだ一等三角点など見ていないので山頂の稜線へ登る。登りきると古井戸への道などもあるが、左にとり三角点へ行く。同じバスできた4名の登山客が、三角点のそばで休憩をしている。親切なことに柚子をくれた。
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大丘田山、背後は台北市街と陽明山の山並み |
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大土匪洞 |
北側に向かって展望台が作られている。これから歩く粽串尖や大丘田山とその先の十七寮山への稜線がはっきり見える。その先には谷を挟んで6月に歩いた将軍嶺とその下に伴吾社区の住宅群が見える。ここからは、この好天気なもと粽串尖や大丘田山へは楽勝だと思っていた。下り道の途中には、小土匪洞や観音洞、また大土匪洞などがあるが、先を急いだほうがよいと思い、少し遠回りになる前者2つには行かず下った。大土匪洞は抗日分子が人質などを隠していたということだが、中は暗くてよく見えない。フラッシュで写真を撮ると、確かに内部は広いことがわかる。土匪(盗賊)洞の名は、抗日分子は周りを日本軍に囲まれ、食料供給が困難になり、近くの民家の鶏などを盗んだことから、そのように呼ばれたそうだ。
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獅尾格坪からの下り道、背後は獅仔頭山 |
さらに下ると、獅尾格坪の展望台が現れた。ススキの穂が大分高くなっている。このため展望はもうひとつだが、青い空は気持ちがよい。時間は9時半、太陽が大分昇ってきた。木製の展望台は、完成後大分時間がたっているようで、抜けている床板もある。ここから木製桟橋がずっと造られている。下りきると舗装路が合流する獅尾登山口についた。駐車場もあり、車で来た場合は、ここから気軽に獅仔頭山へ登れる。振り返ると獅仔頭山が見える。
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粽串尖頂上 |
大丘田山への縦走路は、駐車場の片隅から続いている。道は、それまでとはずっと程度が下がる。自治体の道しるべなどはまったくない。歩き始めてすぐ、竹林の中をいく。下りきったあと、少しののぼりで粽串尖の分岐が現れた。左に道をとり、粽串尖へ向かう。獅尾登山口から20分足らずで標高728mの頂上についた。木々に囲まれているが、北側だけは開けており、大丘田山がいっそう近くに見える。食事休憩をとり、10時に出発する。登ってきた道を折り返し下り、分岐へ戻る。
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土砂防止壁の上を歩く |
分岐から少し入ると、粽串尖への道と比べると、さらに歩かれていないようだ。下草が多く、獣道に近くなってくる。道しるべのリボンもあるが、まばらでところどころ道を探すこともあった。いやな予感がする。それでも、注意を払えば見えてくるので、先に進む。30分ほど歩いた後、大丘田山山腹に多く残されている、廃棄された住宅開発時の土砂防止壁にたどり着いた。周りは木々や竹が多く茂っている。ネット上の登山記録などでは、この防止壁に沿って進むそうだが、沿ってというよりは幅20センチぐらいの壁の上端を歩くことになる。
壁上端歩きははじめはよいが、歩くにつれ下端からの高さが高くなっていく。ところどころ草や潅木が茂り、行く手をさえぎる。しばらく歩いていくと、高さはかなりのものになる、三階建ぐらいの高さだろうか。右に落ちたら、間違いなく怪我をする。反対側も大きな溝があるので、こちらも危ない。この壁もそろそろ終わりになるあたりで、山腹のほうにいくかのようにリボンがかかっている。壁から離れて、ほっとしたものの、今度は密集した竹やぶの中を進むことになってしまった。しばらくは、もがいて進んだものの、回りを身の丈よりはるかに高い竹で囲まれ、進むべき方向がわからなくなった。大丘田山へはそう遠くないと思われるが、単独行であるため万一を考えて、折り返することにした。残念だ。
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土砂防止壁の上から見る山並み |
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大丘田山への道なきみち |
今来た壁の上を、また注意深く戻る。先ほど竹やぶでもがいたので、かなり疲労している。自分に言い聞かせて、ゆっくり着実に歩く。壁が終わり、先の道を戻る。下にある中学校のチャイムが聞こえる。メリメリッと枯れ木が倒れていく音も聞こえた。折り返し点から歩くこと40分で獅尾登山口に戻った。時間は11時50分、まだ早い。ここで休憩を取る。予定のルートを完了できないので、どこから下るか考えた。結局、朝出発の登山口へもどりバスで戻ることにした。
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古道の入り口 |
獅尾登山口から、また獅仔頭山に登り返すこともできるが、山腹を行く古道をいく。はじめ、舗装路を下っていくと、右に古道の標示がある。ここから観獅坪まで登りが始まる。古道というが、全線木製階段.桟橋になっているので、気楽な道だ。しばらくして青染め池の跡地への道しるべがあるので、立ち寄っていく。 12時半に観獅坪についた。朝と違って日差しが強い。風もあまりなく暑いぐらいだ。展望台から大丘田山を見ると、そんなにてこずることもないような山容がそこにある。自分がどのへんまで行ったのか、目を凝らして見る。実際、土砂防止壁の最上部から頂上までたいしたことないように見える。朝は霞の中だった観音山も大丘田山のかなたに姿を現している。
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木製階段・桟橋の古道 |
登山口からの下りバスは1時50分なので、まだ時間がある。ゆっくりと周辺の写真を撮る。下り始めると、数人の人夫が朝来るときにみた歩道整備用の材料を担ぎ上げていた。なかなか大変のようだ。登山口には1時少し前に到着。朝の四人組みの登山客もバスを待っていた。駐車場に満杯状態で、道路わきにも何台も車が駐車してある。大型ミキサー車がこの狭い道を通り過ぎていく。新店区役所からのシャトルバスは、2人の登山客を降ろしたあと、時間通り1時50分に出発した。下りは12名の乗客であった。
今回は途中で引き返したこともあり、歩行距離はすくない。8kmぐらいである。時間は休憩も入れて5時間である。獅仔頭山だけであれば、歩道はしっかり整備されているし、日本にゆかりのある遺跡も多いので、お勧めする。ただ、さらに別の山へ縦走する場合は、十分に状況を確認したあと仲間と行くほうがよいかもしれない。
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シャトルバスが到着 |