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鴻子山東北峰基石(大正11年専売局造林地)と背後に鴻子山 |
宜蘭は、台湾島の北西に位置する蘭陽平野を中心とした太平洋に面する場所である。今回は平野北部にある,温泉で有名な礁溪のすぐ上にそびえる鸿子山を登った。台湾には、◯◯富士と呼ばれる山が数座あるが、宜蘭でも鸿子山が礁溪富士山と呼ばれている。遠くから望むと独立したピラミッド山容で、富士を彷彿させる。小百岳の一つとして選ばれている。この山は、実は以前から山行を考えていたが、何かと後回しになり,やっと実行した。
Taipei Hiker Clubにこの登山予定を載せたところ、数名の同行希望があったことも後押しになった。
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礁溪の街から反時計回りに回遊 |
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単一ピーク登山 |
台北から宜蘭への交通は、海上を船で来ることも可能だが冬は季節風で海がしけることも多く、昔は山を越えて来る街道が歩かれていた。淡蘭道と言われる昔日の街道には、いくつかのルートがある。坪林から谷を上がって峠を越え蘭陽平野の礁溪へ降りてくる道が、今回歩いた跑馬古道である。この道は山で切り出した木材を運び出すことにも使われていた。日本統治時代、軍官が馬に乗りこの道をしばしば往来したことから、通称跑馬古道が広く使われている。鉄道や自動車交通の発達により、古道は本来の目的で往来する旅人は減少し忘れられた。今は、ハイキングや行楽の一環として歩かれている。整備が行き届き、馬車で荷物を運ぶこともできるほど巾が広く、勾配もゆるやかなよい道が続いている。実は、筆車は十数年以前に一度この道を下って歩いたことがある。
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跑馬古道(前方に鴻子山が見える) |
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湯圍溝公園から鴻子山の山頂が望める |
台北から宜蘭への交通は、今は実に便利である。台北市府轉運站のバスターミナルから首都之星バスが頻繁に宜蘭の主要都市へ出ている。我々は8時前に礁溪直通1572番バスで出発する。ターミナルを出た後、バスはまもなく高速道路に入り進む。台湾北部はここ数日天候が悪く、前日の天気予報では、宜蘭山岳部は降雨率70%とのこと。天気が心配である。第五号高速道路を長い雪山隧道で抜けると、宜蘭は曇っているものの山が望める。まもなく目的の鸿子山も車窓から右に望める。ただ、小雨がまだ降っている。台北から50分ほどの乗車で礁溪湯囲溝温泉公園前の終點に到着、ここで少し待ちLさんが合流する。今日のメンバーは、全員で5名だ。
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古道入口の筆者 |
9時少しすぎ出発する。雨は上がっている。温泉のお湯が流れ、足湯に浸かれる湯圍溝温泉公園からは、右前方に建物越しに鸿子山が頭を出している。街中の道を通り過ぎ、忠孝路一巷の坂道を登る。街中もそうだが、山に登っていくこの道の両わきも数件の温泉がある。十数年前に礁溪温泉に泊まったことがあるが、そのころに比べると随分と温泉の軒数が増えているようだ。雪山隧道貫通による交通の便が向上したことの恩恵が現れている。坂道が左右に別れる。右に道なりに進みお寺の脇を上がる。そこから右に跑馬古道へ産業道路を進む。9時30分、立派な表示のある古道入口に着く。
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古道から蘭陽平野を望む、遠くに亀山島 |
古道は、道幅が広く砂利がしかれている。実によい山道である。十数分歩く。右に樹木がなく、展望ができる。空は雲が垂れ込めているが、足もとには蘭陽平野が広がっている。更に数分進むと、平野の北端辺りもみえる。海には龜山島が浮かんでいる。平野の田んぼには、水がはられている。宜蘭の平野を守る亀と蛇の神の伝説の説明板がある。亀神は勿論龜山島、蛇神とは太平洋海岸に長く延びる砂浜のことだ。道は山腹を進み、山が深くなっていく。道脇の立ち木を利用して椅子が造られている。10時10分、一休みする。
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山茶花の花が道に落ちている |
この地点が平野の見納めだ。ここから先、右には猴洞坑溪の谷が深い。山茶花の白い花がたくさん路上に落ちている。連日の雨で落ちたのか。更に進むと、左に山神の祠がある。赤い布が掛かっているが、中は灯火が倒れたりして少し乱れている。10時36分、猴洞坑溪を橋で越える。水量がとても豊富だ。その先竹林の脇を進み、10時43分、古道の終點に来る。ここからは本来古道だが、今は舗装された産業道路である。左に広場があり、大石がいくつも置いてある。この辺りから振り返ると、上方に鸿子山が控えている。ここから見ると、富士山というより柄杓のようだ。土地の人もそう言っていた。左に鸿子山登山道へ続く山道があるはずだ。産業道路を進み、上新花園(と、いってもコンテナを利用した家屋)を過ぎる。しかし、山道の入口はない。様子がおかしいので、産業道路を戻る。上新花園の人にも訪ねてみる。先ほど通りすぎた広場のところから山道は始まるとのこと。戻って探すと、果たして草が茂る広場の端に、入口を示す標識リボンがある。
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古道が終わったあとの産業道路から見る鴻子山、ひしゃくのようだ |
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増水した沢、踏み石が水の中 |
山道は、上等の跑馬古道と比べると落差が大きい。踏跡程度で滑りやすい。幸い補助ロープが設けてある。尾根を越すと下り、猴洞坑溪を渡る。水量が多く踏石は、水をかぶっている。靴の中に水が入るので、靴を脱ぎ渡渉する。今までの山登りで初めてだが、仕方がない。こういう時には長靴が便利だ。沢から二、三分で左に道が登っていく。おそらくこれを行っても、鸿子山へ続くと思うが、直進して手持ちの地図上の道を進む。11時36分、沢沿いに進んできた道は産業道路の橋に出た。
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草原の登りが始まる |
産業道を少し進み、民家脇を通る。突き当りに登山口がある。黒犬が二匹やって来た。吠えるでもなくおとなしい。二匹とも前足が悪い。一匹は関節以下が無い。メンバーのLSさんは、持っていた食物を分けてやる。山道を進み始める。こちらは歩行者数が多いようで、道筋がはっきりしている。森の中を5分ほど登る。右に草原を道が登っていく。直進する道は、おそらく先ほど見かけた分岐へ続くのだろう。鸿子山へ草原の道を登る。分岐から二、三分で基石を見る。鸿子山東北峰と表示がある。基石は、日本時代大正11年の専売局のものである。造林地と刻まれている。
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草原の道を進む |
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蘭陽平野が望める、その向こうは太平洋 |
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ススキの間を登る、ところどころ展望ができる |
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鴻子山頂上、三等三角点 |
朝心配した天候は、時々太陽が雲間から現れ雨が降るけ気配はない。とても気持ちのよい草原の道が続く。登るに従い、展望も広がる。左に蘭陽平野が広がる。前方は鸿子山だ。振り返れば遠くに四堵山から
鶯子嶺へ続く山並みが見える。鶯子嶺の右には
太和山の山頂ものぞいている。手前には圓通寺と北宜公路を行く自動車が見える。右側の草原山腹を進んできた道は、背の高いススキの草むらの中を行くようになる。草原とちがい、ここからは展望はあまりない。ところどころ、草の高さが低いところもあるが。樹林もところどころ現れる。最後の草むらセクションを登りきり12時36分、鸿子山山頂(標高679m)に到着する。三等三角点の頂上は、そこそこ広いが周囲は背が高いススキに囲まれ、展望はない。昼食休憩を取る。
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ジグザグ道を下る |
過去二、三ヶ月ほど、長距離山行を続けているが、今日は気楽な単一ピーク登山である。40分近く休憩をとり、13時10分過ぎに下り始める。草原の道はすぐ樹林の中に入り、ジグザグで急斜面を下っていく。樹木の切れ目から、遠くに三角崙山方向の山が望める。濡れた土の道はとても滑りやすい。13時28分、鞍部に降り切る。左に取り、草をかき分けて下り始める。すぐ下草の多く湿った樹木中の下り道となる。スパッツをつけているが、膝以上は草の滴でたちまち濡れる。そのうち沢音が聞こえ始める。
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沢を越して進む |
13時50分、沢わきに下りる。一本橋ごしに右から道が合流する。塩ビの水パイプが道に沿って走る。こちらの沢も連日の雨のため水量が多い。ただ、沢巾もそれほどでなく踏み石をわたって渡れる。沢を三、四回越す。14時15分、大菁が群生する中を過ぎる。倒木が連続現れ、くぐって進む。沢は左のかなり下の方になっている。右岸の山腹高くを進み、急坂が始まる。14時42分、突然広い清修宮の境内が現れる。ちょうど、住人がいて山から来たのかと訪ねられた。親切に、水道やトイレの場所を教えてくれた。後は、産業道路を下るだけ。最後の休憩を取る。境内端から見る鸿子山はすでにかなり高い。
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とても広い清修宮の境内 |
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清修宮からの下りで礁溪の街を見下ろす |
どろどろになった靴などを洗い、ゆっくり50分ほど休憩する。ここまで下れば雨が降っても問題なし、ただ幸い雨は振りそうにない。15時30分すぎ、産業道路を下り始める。つづら折りに下る産業道路からは、礁溪の街並みが下に広がる。15分ほどの下りで、跑馬古道の入口近くに降りてくる。産業道路を下り、温泉が両脇に林立する忠孝路一巷をさらに下っていく。そのまま街中を行き、繁華街の包心粉圓スイーツ店に立寄る。17時少し前台北行きの首都之星バスで帰途に着いた。
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観光地礁溪の街中 |
今回の山行、歩行距離は12.7km、活動時間7時間である。そのうち休憩は2時間ほど取っており、歩みもゆっくりである。今回は、気楽で愉快な山登りであった。心配した雨も降らず、道はぬかって滑りやすかったものの、助かった。一部踏跡程度の場所があるが、ルートの水準はクラス2~3、体力的にもクラス3、おすすめのコースである。今まで宜蘭の山に来たことがあるが、今回は初めての路線バスによる来訪で、様子がよくわかった。今後、同じように路線バスで宜蘭の山を訪ねて行きたい。
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