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主稜線から国旗の立つ烏嘴尖を見下ろす、背後は峰頭尖 |
台湾北部の冬の晴れ間は貴重だ。雨の憂鬱な日がしばらく続いたあとはことさらだ。ちょうどの晴天に巡り合えれば、台北近郊の登山はとても愉快だ。気温も暑くなく、晴れた空のもとで台北付近の街や周囲の山々を眺めて歩ける。開花時期はばらつくが山桜やその他の花にも出会える。今回は数日続いた雨の後の、晴天の登山が出来た。平渓の山である。最近雙溪から歩いて平溪に出たが、今回は平溪内だけだ。
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東の平渓から稜線に登り、西の一坑口へ下る |
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歩行高度、中間の低点は盤石嶺 |
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石底橋をわたって平渓老街へ |
台北から基隆への谷と平渓の谷は瑞芳の
三爪子坑山から
五分山、
姜子寮山や
四分山などが並ぶ山脈で隔てられている。その山を越えて両者をつなぐ古道が歩かれてきた。この内の一つが汐平古道である。現代のように余暇スポーツとして登山が行われる以前は、山を越える道は生活のためである。したがって最も効率的に越すことが重要で、鞍部を峠で越えるものが多い。汐止と平溪の間では、盤石嶺が一番低い鞍部になる。ここは車道の汐平公路も越えて行くが、
菁桐古道の峠でもある。それ以外に平渓側は盤石嶺登山步道とも言われている石底古道が平渓の集落へ下る。石底古道は下方で現在の汐平公路となる。そのほぼ近くで、東側に姜子寮山方向に沢沿いに登る道が今回の汐平古道だ。この古道は、姜子寮山の山腹を行く山腰古道と合流し、さらに進むと稜線に登っていく道を分ける。稜線への道を進むと反対側から
姜子寮古道と出会う。汐平古道は確かに古い石段などが設けられ、古道の趣きがあるがもう一つの特徴である土地公の祠はない。
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平渓国民小学校 |
古道をへて稜線に登った後は、西側に稜線を追い烏嘴尖を往復、その後石硿大崙を越え盤石嶺に下りる。そこから更に稜線を耳空龜山方向へ進み、薯榔尖の北稜を通って薯榔尖頂上へ、そして一坑口へおりた。後半の部分は、実は今月末に登山グループ慢集団の道案内で歩く予定がある。以前歩いてから1年半過ぎているので、近況確認の目的である。姜子寮山から盤石嶺を経て耳空龜山への山道は、最近整備が行われたようで、草は刈られ補助ロープは新しく、また付近の樹木の枝を利用した階段などが設けられていた。整備範囲や内容は規模が大きく、おそらく地方政府によるものだと思う。
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コンクリ舗装の汐平古道の入口付近 |
平日の登山だが今日は三名が参加、都合四名の山行である。MRT木柵バス停に集合、7時20分過ぎに木柵ターミナルを7時15分発の795番バスで平渓へ向かう。普段は通学で混雑するが、冬休みなので車内は空いている。8時過ぎに平渓バス停に到着する。石底橋をわたって平渓老街を進む。老街が途切れ平渓区役所を通り過ぎる。その先平渓小学校の前を通り過ぎ、更に車道を山に向けて進む。平福橋を渡り集落の前を行く。前方に後に歩く主稜線が見える。8時23分、標識リボンのある石段が右に登っていく。これは、姜子寮山から平渓側に下りる二本の枝稜の一つへ続く道のようだ。
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石底古道の入口 |
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汐平公路(車道)の登ってきた部分を見る |
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石の文字は人生? |
8時39分、道が左に長壽橋を渡っていく。その付け根から左岸を行くコンクリ舗装の歩道がある。汐平古道の入口だ。コンクリ製欄干などもつけられ、状態のよい道だ。骨壷が道端に置かれている。壺はこけに覆われているが、焼香されている。入口から数分やってくると、民家がある。壁にルアーがたくさん吊るしてある。ここで作っているようだ。道の正面方向には屏風山が見えている。8時52分、平和橋にくる。これを渡れば汐平公路に出る。地図では、橋をわたらず土の道を行くようになっているが、板で塞いである。板は動かせるので開いて土の道を進む。ガチョウの小屋を過ぎて三坑40之1號の民家が現れる。そこから、古道は民家の脇を通り沢沿いを行くようだが、鶏の放し飼いなって塞がれている。どうやら、地図が作られた時から変化があるようだ。民家の前にある橋を渡り汐平公路に出る。
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コンクリ水路から上がる |
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汐平公路脇からまた汐平古道を登る |
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古い石段の残る汐平古道 |
汐平公路を進む。ヘアピンカーブの付け根部分から石底古道(盤石嶺歩道)が始まる。案内板がや移動式トイレがある。その先、右に道が分かれ下っていく。これを進み沢を橋で渡る。渡ったすぐのところに小屋があるが、そこには標識リボンのある踏跡入口がある。これは先ほど塞がれてしまった民家脇からの道だろう。左に坂を登り進む。石に文字が刻まれているが、判読できない。そのすぐ上の民家脇から古道が始まる。これから草深い道になるので、スパッツを着ける。
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国旗のたつ烏嘴尖 |
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山腰古道から主稜線を望む |
草深い山道を10分ほど進む。道は公路沿いのコンクリ製水路にでる。巾の広い水路だが、水はわずかだ。この中を少し行き、左に公路へ上がる。少し公路を進み、カーブのところから古道がまた始まる。まもなく古い石段も現れ、古道の特徴が現れる。沢を越す。水は少ない。夏来るにはよい場所だ。そのうちに沢を離れ、山腹を登る。左に樹木が切れたところから、ピークが見える。頂上に国旗が見える。烏嘴尖だ。9時56分、山腰古道と合流する。公路脇から約20分である。
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山腰古道の分岐、左に主稜線へ登る |
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草の刈られた主稜線の山道 |
山腰古道は右にとり進む。そのすぐ先にまた分岐がある。ここは左だ。この道はその名の通り、山腹を縫って進んでいく。前方に主稜線が見えてきた。10時12分、左に稜線に続く道が別れる。ここは左に稜線に向かって急坂を登る。ジグザグの急坂を登ること約10分、ヒョコリ稜線道に出る。驚いたことに、主稜線上の道は綺麗に刈られている。前回反対側から姜子寮古道からやって来た時とは、大違いだ。10時26分、一休みする。
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一年半前の主稜線道、上とほぼ同じ位置 |
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烏嘴尖からの景色、中央の三角ピークが薯榔尖、右の峠が盤石嶺、そのちょうど奥のピークが耳空龜山 |
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手入れされた山道の階段 |
休憩後、西に稜線道を進む。草が幅広く刈られている。そのうち急坂には近くの灌木の枝を利用した階段や新しい補助ロープも現れる。道の状態は見違えるほど良くなっている。この整備工事はかなり規模が大きい。振り返ると、姜子寮山が望める。頂上に続く茅の間の道も、巾広く刈られてはっきり見える。進行方向右下には汐止の街が、左下に国旗がはためく烏嘴尖が望める。その後ろには
石筍尖がある。今日は天気がよく、展望がよい。稜線上の小ピークを越して10時56分、烏嘴尖への分岐に来る。左に取り、少し枝尾根を下っていく。右に更に下っていく道をわけ、左に少し進むと烏嘴尖頂上(標高650m)である。国旗はあるが、基石はない。
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石硿大崙山頂 |
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盤石嶺の峠が下方に見える |
展望がとても良い。背後はここより高い稜線なのでその先は見えないが、360度の展望である。南方向には、これから行く盤石嶺の峠が、それから更に耳空龜山方向へ伸びる主稜線、その左に最終目的地の
薯榔尖がはっきり判る。そのすぐ左奥は平渓三尖の一つ
峰頭尖が大きい。風もあまり無く、実に快適だ。しっかり展望を満喫した後、往路を主稜線へ戻る。小ピークを越し、痩せ尾根部分を通過する。岩露出部分もある。11時48分、石硿大崙山頂(標高645m)に着く。基石もない、ちょっとした盛り上がりで展望もない。脇の幹に取り付けられた山名板がなければ気付かず通りすぎてしまいそうだ。そのすぐ下で、右に姜子頭山への道が下る。この道は整備がされていないようで、本来の草深い道だ。更に少し下り左に、山腰古道への道が分岐する。盤石嶺へは尾根道を下っていく。
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急坂を下る |
本来枝を四方に伸ばし通過に邪魔な林投が生えているが、おそらく機械で刈られたのだろう、ズタズタになっている。ちょっとした岩のギャップを乗り越え、更に下る。12時17分、盤石嶺への急坂上部に来る。眼下に峠部分が見える。そのまま尾根を下り公路へ出ることもできるが、遠回りになる。急坂を下る。早速補助ロープの連続する急坂が現れる。20分ほどで下りきり、汐平公路に出る。福興宮の前を通り、反対側の耳空龜山登山道を登り始める。この周辺は桜が多いが、咲いているのはまだほんの僅かだ。麓ではすでに満開であるが、冷たい風が吹き抜けていくこの場所は、開花が遅い。12時45分、少し登ったところにある石のテーブル・イスの部分で食事休憩を取る。
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わずかに咲いた桜の花 |
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耳空龜山步道の石段、ここも両わきの草刈りがされている |
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薯榔尖北稜を歩き始める |
13時10分、送電鉄塔の下をくぐり出発する。ここからの尾根道は、もともと整備されているが、更に手入れがされているようだ。歩きやすい道になっている。登り気味の尾根を進み、小ピークを越していく。空は少し曇り気味だ。この部分の道は、盤石嶺古道とも言われる。尾根を進んだところにある耳空龜山の近くには炭鉱があり、それに関連して歩かれていた道だったのだろう。尾根上を行く道としては珍しく古い石の階段も残っている。13時40分、薯榔尖への分岐に来る。
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急坂を登り返す |
左に折れて下っていく。この薯榔尖北稜は、距離は短いがきつい登り下りが続く。更に岩の露出した場所や補助ロープを頼りに通過する場所もあり、体力と経験が要求される。早速登りが始まり、また大きく下る。岩を登り回り込み少し登ると、また下りだ。鞍部のところから左に大きく折れ、滑りやすい土の急坂をずっと下りる。ここは、遠くから見るとわかるが大きな岩がのしかかる場所で、尾根をそのまま進むことが出来ないため、大きく下って回りこまなければならない。下りきると、そこは岩壁に一本橋がかかっている。橋は、最近取り替えられた新しい枝木で、つなぎ部分には金具も使って補強してある。これは今回の山道整備で行われたもののようだ。補助ロープも新しい。岩壁を回り込むと、急登が続く。登りきると岩の露出した尾根に戻る。ここからの眺めはよい。痩せ尾根を進む。最後に急坂を登り、15時25分薯榔尖頂上(標高622m)に着く。北稜は距離では1kmぐらいだろうが、1時間40分を要している。こうしたルートに慣れていないメンバーが参加していることも関係しているが。
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歩いた北稜を振り返る |
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薯榔尖頂上の筆者 |
一年半ぶりの再訪だが、頂上周囲の樹木はだいぶ伸びて、以前のような展望はできない。頂上に国旗がはためいているのは同じだ。また、北稜途中にもあったが、新しい木製の道標が取り付けられている。少し休憩した後、一坑口へ向かって下り始める。薯榔尖へは二坑口から花崗岩階段のよい登山道があるが、今日は土の枝尾根道を下る。この道も整備されているようで、新しい道標がつけられている。ただ、岩の露出した場所などは以前と同じで、二坑口登山道に比べれば経験者向けだ。坂もけっこう急である。下方から106号線を行くバイクの排気音などが聞こえてくると、山道は終わりが近い。尾根からはずれ、沢音が大きくなり、16時47分登山口に下りる。約1時間の下りであった。
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岩場の下りもある一坑口登山道 |
左に進み古い民家を通り過ぎる。犬が道の真んなかに寝ている。炭鉱が閉鎖され久しく、ひと気は少ない。すぐ近くの菁桶は駅周辺が観光地になり賑やかだが、ここまでくる観光客はいない。バス停でしばし待つ。17時20分過ぎ、満員の795番バスがやって来た。
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犬が道真ん中で寝ている、背後の山は峰頭尖 |
歩行距離約10km、行動時間は休憩込みで8時間半である。今回のルートは、盤石嶺までの前半は困難度山道も体力もクラス3である。後半は、それぞれクラス4となる。またしばらくして、一坑口から登り盤石嶺へ山仲間を連れて登ることになる。人数も多いので、盤石嶺までは4時間を見る必要があるだろう。その頃には、盤石嶺の桜は満開になっていると思う。