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石盤寮瀑布 |
今年の夏は7月も8月も、台北近郊の山は登らなかった。登らなかったというよりは、台湾不在の時が多く、時間がなかったこともある。また予定はしたが、天気が悪く結局行かなかった。今回の山行は、予定したが二回とも天気が悪く、実行しなかった予定の山行である。先週の台風やその後の雨で、沢がかなり増水し、川幅いっぱいに流れていたり、古道は二か所枝沢のところで完全に流されて、道がなくなってしまっていた。結局、予定通りには歩かなかったが、久しぶりに台北近郊の不人気山を体験した。
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西から東へ歩く |
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歩行高度、一度谷に下って登り返す |
新北市雙溪區は、筆者が好きな場所である。高い山はないが、美しい古道が多く残り、台北近郊では人口密度が低い場所だ。つまりは開発が遅く始まったので、自然がまだ多く残り、美しい古道もあるわけだ。今回は、まだ足を踏み入れていなかった、大溪川の渓谷である。この部分は行政区分ではすでに宜蘭縣だが、雙溪側から分水嶺になる尾根を隔てたところになる。雙溪側の水は、北勢溪に集まり、最終的には淡水川として台湾海峡に流れる。大溪川は、短いが太平洋に流れ込む。その支流には落差の大きな石盤寮瀑布がある。立派な滝だが、不便な場所なので訪れる人は少ない。
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今回の歩行場所 |
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タクシーで登山口へ |
今回は、初めて一緒に歩く三名を含め、合計11人のパーティである。朝、台北を7時半の自強号急行で出発する。集合は途中からの乗車があるのでこの列車上としてあるが、大部分は台北から乗車だ。8時半過ぎに雙溪駅に到着する。以前は、ここから新北市の無料コミュニティーバスで、虎豹潭や灣潭へ向かったが、時刻改正後は9時過ぎになってしまったので、タクシーで向かう。人数が多く三台必要なので、昨日電話で予約済みだ。駅に着き、タクシーにのって登山口へ向かう。登山口は、虎豹潭をすぎてしばらく行ったところにある青山雲霄精舍の大きな廟の近くだ。左に入っていく産業道路が入口である。右に登っていく道は
灣潭へ続く、烏山古道の西側部分である。
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烏山尖、ふもとに雲霄精舍 |
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雙溪の古道は幅が広く美しいところが多い |
支度をして9時半前に出発する。ここまで来る途中では、小雨がぱらついていた。今は雨は降っていないが、曇りで青山雲霄精舍の上にそびえる烏山尖の上のほうは雲のなかだ。舗装路を進んでいく。そのうちに土の道に代わり、古道の様子になる。橋をこえてまたしばらく舗装路が続くが、また土の道になる。20数分、緩い登り下りの道をやってくる。沢を越える。水量が多い。坂を上り切り、10時2分民家が現れる。烏山36號民宅だ。今は誰も住んでいないが、電気はここまで来ている。民家にはもう一つ 烏山1號の標識もある。どちらが正しいのか。少し休憩する。
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烏山36(1)號民宅、今はだれも住んでいないようだ |
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小沢を越え進む |
山の方向は、霧の中だ。雨は降っていないが、ここしばらくの雨で森はぬれている。道もここから細くなる。小沢を二、三か所越え、そのうち沢から離れる。谷を詰めていくと、10時23分峠に着く。ここは、右は三分二山、左は
横山へ続く鞍部でもある。今年4月の日付の藍天隊の道標が新しい。この峠から長い下りが始まる。道は草に覆われ、今までの登りよりさらに歩かれている程度が低い。この先は、まさに不人気山道である。
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峠の鞍部、ここから直進して下る |
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草に埋もれた民家跡 |
下りが少し緩くなってくる。11時、石積壁が残る民家跡に着く。その先にも三軒ほどの遺跡がある。この不便な山奥に、以前は人が暮らしていた。今は緑の草木に覆われ、人の息吹は感じられないが、この道はまさに生活を支えた古道である。その先十数分、山腹をトラバースしていく。11時18分、道が二手に分かれる。道標はどちらも先で合流するという。左の道をとり、急坂を下っていく。数分で、先ほど分かれた道と合わさる。
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水量の多い沢を注意深く渡る |
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壊れた土地公の祠 |
下るにつれ沢音が大きくなってくる。11時34分、沢岸にでる。水が沢幅いっぱいに流れている。今日は、やはり水量が多い。今日は長靴だが、深いところは長靴でも足らない。注意して沢を越す。更に数分沢沿いに進む。滝の上部にくる。今日の見ものの一つ石盤寮瀑布だ。道を少し行くと、土地公の祠がある。石壁はあるが、屋根部分はすでに壊れてない。このような辺鄙なところなので、焼香する人もいない。道は滝から大きく巻いて下る。11時48分、分岐から少し入り滝の脇にくる。
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別の角度から見る石盤寮瀑布 |
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以前の土砂崩れ場所 |
水量が多い滝は、実に見事だ。落差は10mはあるだろう。すぐ下が、また別の滝で、また対岸も迫っているので、離れてみることができない。近くでも水が多く流れ、長靴でないと水に入れず見物も大変だ。これだけの滝は、台北付近では多くない。実に立派だが、この滝を見るためには、細い山道を少なくとも2時間かけなれば来れない。秘境といえる。滝からまた古道に戻り、さらに下る。
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助けあって土砂崩れを越える |
滝から数分で、石を積み上げた土止壁のある棚田部分を通過する。以前はここで耕作がされていた。どれだけの苦労をかけてここを切り開いたのかと思うと、頭が下がる。沢は右下になり、山腹を行く。細い道はところどころ流され、ギャップができている。前方に枝沢が現れる。ところが道が切れてしまっている。よく見ると、土砂崩れで道が一緒に流されてしまっている。枝沢の上に道があるようだ。急な赤土の斜面を登る。足場がなく実に大変だ。メンバーの中には、こうしたところが初めての者もいる。お互いに助け合って難所を越える。
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大きな廃屋が現れる |
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滝上部の沢を越える |
12時37分、開けた場所に大きな家屋跡がある。かなり大きなもので、宿泊などの目的で使われたのではないだろうか。窓には鉄の格子がはめられている。更に道を下る。数分先で、また別の土砂崩れ場所を通過する。その先は、大きな倒木が道をふさぎ、これを乗り越える。しばらく緩やかな山腹道のあと、坂が急になり13時13分、沢に出る。滝の上部になる場所だ。ここも沢幅いっぱいに水が流れ、長靴でないと渡るのが大変だ。
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水量の多い大渓側を渡る |
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昼食場所 |
沢を渡り山腹を進む。そのさきでさらに大きな沢が現れる。大溪川の本流だ。かなり深い場所もある。水の中の石を渡り、かろうじて長靴の中に水が入らずに渡る。ほかのメンバーは、靴を脱いで渡渉している。全員沢を渡り切り、その先右に行く。道筋ははっきりしないが、幸いマーカーリボンが続いている。左に大きく曲がり急坂を登り切ると、開けた場所に出る。上段部分には、シートで屋根を造ったキャンプがある。おそらくここで猟や魚を釣るためのものだろう。時刻はすでに13時50分近く、休憩し食事とする。
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食事も終わり、元気になったメンバー |
本来は、ここからさらに大溪川にそって進む大溪川古道を歩く予定であった。しかし、今日は水量がとても多い。さらに最近の台風や雨のために、倒木や土砂崩れもあった。この先も渡渉部分があり、さらに道が悪い場所もある。経験の少ない新人もいるので、ここから先は沢沿いの道を進むことをやめ、上方を進む宜蘭一号県道に上がり、この道を大溪へ行くことにする。
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県道まで登りはあと少しだ |
14時20分、大溪川古道は左だが、ここから右に進む。ほどなく、分岐が現れる。これを左に登り始める。県道までは標高差約200mの登り返しだ。さっそく急坂になる。しばらく登登ったところでマーカーリボンを見失い、位置を確認すると道は左側を進むようだ。そちら方向に行くと、果たして山道に出る。背後の山が相対的に低くなってくる。15時19分、県道に出る。ここは県道の2.1㎞地点である。この先は、舗装路なので一安心だ。
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県道わきの登山口に着いた |
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県道からやってきた山の方向を見る |
十数分の休憩後、車道を進む。時々車が通るが、交通量は多くない。一部少し登りがあるが、おおむね下りの道だ。
二年前に、七兄弟山から窖寮山をへて叢雲山を目指したとき、草深い道に阻まれやむなく、この県道に降りて下山した。今回も、初期の予定とは違う形で、この道を再び歩く。しかし、山登りは常に安全第一である。途中、民家のところで一度休憩し、さらに進む。鶯石尖への登山口あたりには、多くの車が駐車している。16時31分、約1時間の車道歩きで、明山寺に着く。境内に入り休憩する。もともと昼食の時にメンバーが用意し、料理する予定だったワンタンスープなどここで取り出し、みんなでいただく。まだ、大溪駅までの歩きがあるものの、気持ちはもう楽だ。
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明山寺の境内で休憩する |
17時30分過ぎ、約一時間の長休憩のあと、最後の道を歩き始める。この先は、ずっと車道の下り道だ。途中につづら折りの車道を横切る近道があるが草深く、サンダルに履き替えたメンバーもいるので、忠実に車道を下る。台北への電車時刻を確認すると、18時25分に一本ある。そのあとは1時間半待たなければならないので、足を速める。だんだん暗くなり、海岸沿いの大溪漁港は灯りが点り始める。18時22分、無人の大溪駅に到着する。今日は、ダイヤが遅れ気味で、定刻より数分遅れて電車がやってきた。
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大渓漁港に灯りが点り始めた |
今回は、こうした道なき道に近いような山道を初めて歩くメンバーもいた。筆者は、こうした場所はすでに慣れているが、彼らは少しびっくりしたかもしれない。全員無事に下山した。予定通り歩けなかった大溪川古道は、これまた不人気ルートであまり歩かれていない。しかし、途中に見た民家跡のように、ここは人が住居し、生活した場所だ。緩やかな丘の雙溪とは稜線を隔てた宜蘭側は、山が急峻だ。ここでの生活はさらに大変だったのではないだろうか。
長い休憩も含め、今日の活動時間は9時間、歩行は14㎞であった。困難度は、ルートについてはクラス4、体力はクラス3だ。今回歩いた烏山古道東線には、見ごたえのある石盤寮瀑布があるが、このルートは経験者向けだ。
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