|
登山口近くから望むヘルブリン山(山頂は前方峰の向こう) |
|
ブレンカトラ山から望むヘルブリン山脈、奥の最高部分がヘルブリン山 |
二年前にイギリスを訪れた際、イギリス西部ウェールズにある
スノードン山(Snowdon)を訪れた。高緯度に位置する山は、麓から樹木が少なく草原が広がり、見通しがとても良い山であった。このような山は、イギリスが北海道よりさらにずっと北に位置するため、夏は日が長く遅くまで活動ができる。今回またイギリスを訪れる機会があり、それを利用してウェールズよりさらに北にあるLake District(湖沼地区)とスコットランドにある山を訪れた。
|
南側から登り回遊する(軌跡は一部未録) |
|
高度標(ヘルブリン山頂付近の高度は不正確) |
イギリスの最高峰は、スコットランドにある標高1344mのベン・ネビス山(Ben Navis)である。今回登山の主目的地はこの山だが、ロンドンから車で向かうにはちょっと遠い。約520マイル(840キロ)を一気に車を運転するのは、スコットランド入口のグラスゴーまで高速道路経由とはいえつらい。英国友人の勧めで途中Lake Districtに立ち寄り、ここの山を登ることにした。Lake Districtは、イギリスの北西部、EnglandとScotlandの境界近くにある、多くの湖と山を抱えた場所だ。国立公園にもなっている。どの山を登るかについても、友人のアドバイスを参考にした。その結果、Lake District北部の街、
ケーシック(Keswick)近く
ヘルブリン山(Helvellyn、標高950m)と
ブレンキャトラ山(Blencathra、標高868m)を登った。
|
赤丸の位置がLake Districtヘルブリン山の位置 |
前日8月25日、ロンドンから高速道路を経由しLake Districtに入った。
ウインドメア湖(Windmere)に立ち寄り、夕方にヘルブリン山のふもとにある民宿に投宿した。農家の民宿の背後には、ヘルブリン山の山脈がそびえていた。
|
民宿から背後のヘルブリン山を望む |
|
登山口、踏み台を使って塀を越える |
朝起きると天気は良好、実によい登山日和だ。B&Bなので、民宿で朝食をすませ9時半に出発する。ヘルブリン山の登山口は、民宿から道路を少し南に数分行ったところだ。駐車場のあるもともとの登山口は、現在改修中なのでその少し前にある道路わきの空き地に車を停める。今日は、イギリスのBank Holiday(連休)なので、登山者が多そうだ。すでに登山者のものと思われる車が停めてある。同じくヘルブリン山に登ると言っていた民宿同宿者の車もある。
|
登山口近くの牧草地から谷あいを見る |
|
Public footpathの道標 |
支度を済ませ9時40分過ぎに歩き始める。車道を南に少し行くと、左に登山口がある。他のイギリスの山と同様に、放牧地なので家畜が外に出ていなように柵がある。柵には踏み台が取り付けてあり、それを使って乗り越える。牧草地の向こうに、目的ヘルブリン山が見える。何せ樹木がないので、天気が良ければすべて見通せる。牧草地の中には、道を示す表示が取り付けてある。現在正規路が改修中なので、この道は臨時ということで取り付けてあるようだ。正規の道と合流し、また柵を越える。
|
沢の橋部分から登山口方向を望む |
|
石段道の向こうにタルメア湖が見え始める |
道標があり、左はSticks Pass(スティックス峠)への道を示している。そちらの方向から空身のランナーがやってきて、ヘルブリン山へ走って登っていく。ここからは、幅のある登山道が始まる。8月下旬のイギリスは、すでに涼しい。沢を木製の橋で超える。草山であるが、水量は豊富だ。どこからこんなに流れてくるのかと思う。ほぼ同時に歩き始めた、数名の家族ハイカーが前方を登っていく。また柵がある。ここは門を開いて入る。山道は勾配を増し、石段が始まる。登るにつれて、青空が広がり、登ってきた方向には、
Thirlmere(タルメア湖、人造湖)の水面が見えてくる。道には羊のフンなども落ちている。
|
登山口が下に遠く見える |
|
急坂を親子が追い越して速足で登っていく |
ジグザグ道が終わると、道は勾配を増す。道脇に、石を積み上げた壁のようなものがある。以前放牧の羊を入れたものなのだろうか。今は崩れている。歩き始めて一時間、だいぶ高度が上がってきた。北方向谷間の向こうには、明日登る予定のブレンキャトラ山が望める。後方から少年と父親の二人が我々を追い越していく。かなり速い。上方を見ると、岩壁のピークが高い。先ほどのランナーが走って降りてくる。天気はすこぶる良いが、風がかなり吹き始めた。イギリスの天気は、変わりやすい。日本人もあいさつ代わりに天気の話をするが、イギリスでも同じだ。ジャケットを取り出し着る。
|
登りの途中、北側を見る。White side山が見える |
|
父親が幼少の息子をなだめて登ってくる |
つづら折りの急坂が続く。高度もだいぶ上がり、南方向に別の湖や、その先に海も見える。11時40分、約2時間で急坂も終わり緩やかな稜線上を進むようになる。12時4分、Sticks Passへ続く稜線道との分岐を過ぎる。前方には、ヘルブリン山の頂上が近い。下方から上ってきた家族ハイカーには、5歳ぐらいの男の子がいるが、父親に手をつながれ泣きながら登ってくる。これ以上上るのはヤダとすねている。東側の谷やその先の峰々も見えるようになる。風はさらに勢いを増し、稜線上を吹き抜けていく。寒いぐらいだ。
|
稜線の東側が望める、谷底に池がある |
|
たおやかな稜線 |
|
放牧された羊、遠くには湖やその先に海が見える |
たおやかな稜線は、この地域の山々の特徴だ。地理学的には、浸食がかなり進み老齢期ということなのだろう。道脇には羊が草を食んでいる。12時17分、石を積み上げた頂上の標識がある。約2時間半の登りであった。東側はかなりきりったており、その底部には湖がある。そしてその先麓には、Lake District第二の湖
Ullswaterがある。山からは多くの湖が望める。まさにこの地区がLake Districtと呼ばれる由縁だ。
|
頂上から東側を望む、下部には湖がある、ここは火山であった |
|
山頂の筆者 |
頂上からさらに南に少し行く。そこには石を十字型に組み上げた壁がある。風を防ぐことができる休憩場だ。多くのハイカーが休んでいる。自分もそこで休憩し、コンロを取り出す。湯を沸かし、昨日ケーシックのスーパーマーケットで買ったカップラーメンを食べる。風が吹きぬけて寒い中、温かい食べ物はありがたい。30分ほどの休憩後、やってきた方向に戻り始める。
|
十字の石壁で風を防ぐ休憩場所 |
|
バイクライダーがやってきた |
頂上の石積標識を過ぎ、先ほど登ってきた登山道との分岐へ戻る。ここは右へ稜線道を進む。南側から自転車の二人がやってきた。この山であれば、まさにマウンテンバイクで走ることも問題ない。右の稜線も丸く穏やかな山容である。ちょっとした下り道からは、これから縦走していく尾根がはっきり見える。東側遠くには、Lake Districtの山々とは異なる丘陵地帯が続いている。風がとても強い。対向からやってくる五人家族は手をつないで歩いているが、突風で吹き飛ばされそうだ。
|
これから歩く稜線がはっきり見える |
|
Sticks Passにむけて稜線を行く、左は登ってきた尾根。右に主稜線を行く。谷にはテルミア湖も見える |
|
鞍部には水が噴き出している池がある |
下り切った鞍部には、池がある。このような場所で水が湧き出しているは、とても不思議だ。振り返れば、ヘルブリン山の頂上が切り立った岸壁の上にある。こちら側は、この山が火山であったときの噴火口であったのだ。現在の地形は氷河によって形成されたそうだ。ピーク(White side)を一つ越え、また下る。頂上には、風よけと思われる石積の壁がある。
|
稜線上で振り返る、左奥の黒い部分がヘルブリン山の絶壁。右側の尾根は登ってきた道のある枝尾根 |
|
Whie Sideの山頂、風よけ壁がある |
下りきったところで、右に東側へ下っていく道が分岐する。基本的にイギリスの山には道標はない。自分で地図を用意し、地形を理解することが絶対必要である。紙の地形図にしても、オンラインの地図にしても、しっかり用意されているので事前に準備することが必須だ。
|
ケルンのあるRaise山頂上 |
|
羊がこちらを見ている、背後はUllswater湖 |
尾根上の道を進む。14時25分、ケルンのある頂上にくる。地図にはRaiseと記されている。標高は883m、頂上近くは石が多く転がっている。石は見たところ火山石である。北西方向に、ケーシックの街とWassenthwaite Lakeの湖が見える。鞍部へ下る。羊がこちらを見ている。鞍部には、また水がわいている池がある。その少し先がSticks Passの峠だ。左に西側へ下り始める。
|
Sticks Pass峠、ここも水がわいている |
|
西側の山を見ながらSticks Pass峠から下る |
|
山腹を下る。テルミア湖が下方に見える |
道は、ゆっくりと山腹を下っていく。前方には、Lake Districtの西側の山々が連なっている。タルメア湖の水面も一部見える。穏やかな山容だが、枯れ始めた草原は石の他には何もない。荒涼という形容詞があうのだろう。峠から下りはじめて30分ほど、後からやってきた二人の登山者が追い抜いていく。15時20分、これも羊をいれて作業をしたと思われる石積壁がある。その先から、勾配が急になる。麓には宿泊の民宿が見え始める。
|
歩いてきた山並みを振り返る |
|
石積の囲い、もう使われていないようだ |
急坂でどんどん高度を下げていく。15時41分ジグザグの道を下り切ると、道しるべがありPublic Footpathの標識を見る。この道を左に行けば、朝歩いた登山道へつらなる。英国は私有地に勝手に入るのは良くない。そこで、こうしたPublic Footpathが設けられている。車道に下って、朝車をとめた場所へ戻り16時12分車を拾う。これで今日の登山は終わりだ。約11㎞の道のりを、6時間半で歩いた。
|
前方右の山はブレンキャトラ山とその左にWassenthwaite湖 |
|
下方に民宿が見える、残りはわずかだ |
|
夕日に染まるヘルブリンの山並み |
イギリスの山は、台湾や日本の山とはだいぶ異なる。山には木々が少なく、ほとんど草原か石である。天気が良ければとても良い展望だが、天気が悪く霧がかかれば風雨から守ってくれる物はない。霧が濃ければ、踏み跡がはっきりしないところは、道にも迷いやすい。天気が良ければ半そで半ズボンでもよいが、冷たい風が吹くとそれなりの服装が必要だ。そうしたことを理解し、登ることが必要だろう。
男鹿半島の付け根にある寒風山に似た雰囲気ですね。規模はまったく違いますが。
返信削除寒風山は行ったことがありませんが、写真でみると樹木のないさまは似ていますね。
返信削除わたしは
返信削除10年以上前に行ったペルーアンデスのワイワッシュ地方を思い出しました
なだらかな山の中に点々と池塘があるんです
そうですか。私はペルーには行ったことがないので、わかりませんが、こうした草原が広がる山なのですね。
削除