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濱海公路から望む基隆山(東峰)、赤線は今回の登山ルート |
今や台湾観光スポットの一つとして欠かせない九份の街を望む基隆山は、街のシンボルでもある。天気が良ければ台北から、あるいは周囲の山々からも望めるピラミッド型の基隆山は、海岸からすくっとそびえる。九份を訪れたことがあれば、登らなかったにしても、街はずれから海方向を見て右側にそびえる山に気づいているはずだ。九份の老街から少し102号自動車道を金瓜石方向に行ったところに、
石段道の登山口がある。この道から頂上へ登るのが一般的だ。
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東側の水湳洞から基隆山を越えて瑞芳へ |
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歩行高度プロファイル |
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水湳洞の集落の間を登る |
最近二、三年は、九份金瓜石周辺の山々は黄金十稜として、石畳の立派な登山道とは別に主にボランティアが開いた稜線道が人気になっている。筆者も十稜すべて歩いたが、その一番目が基隆山の東峰(雷霆峰)から主峰へと続く稜線である。
この稜線へは山尖路から東峰の鞍部への道があり、黄金一稜はここから登っていた。今年の春に、今度は海岸の水湳洞から直接東峰への道が開かれた。今回はこの道を経ての登頂である。早めに登頂したので、下りは九份の街から瑞芳へ
琉瑯古道を経て下山した。
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登山口のメンバー |
実は先月にも予定したが、天気が悪く延期した。今回は、前日二日も天気が良く、道の状態もよいことが期待できる。台北を6時半発の第404自強号で瑞芳へ向かう。平日なので、車内は通学の学生で満員だ。7時15分に瑞芳につき、列車から降りて駅待合室で全員が集合する。7時半発の886番バスで水湳洞へ向かう。瑞芳のバス停は、九份方向はすべて駅前の道を左に少し行ったところだが、886番バスは駅前のバス停から乗るので、間違わないように。
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最初の岩場、今年3月の道標が雑木に取り付けられている |
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岩場を登るメンバー |
瑞芳の街からトンネルをくぐって海濱公路へ出る。基隆山の裾を回り込み7時46分に水湳洞につく。バス停脇広い駐車場の上は、無耳茶壺山のピークがちょこっと存在を示す半平山が、麓に製錬工場廃墟をふもとに控えてそびえている。谷の右を望めば、これから登る基隆山山が高い。かなり切り立った岸壁の上の稜線上に、一筋の山道が望める。あそこを登っていくのだ。今日は、全部で7名である。
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二番目の岩場 |
7時56分、道路を橋を渡り、白い建物脇から新しい遊歩道を登っていく。二、三分で上り詰め公園を抜ける。そこから水湳洞派出所の前を過ぎ集落の間の石段をっていく。車道を横切りさらに上の車道にでる。少し左に進むと、土留壁の上に登山口が始まる。ちょっと見過ごしてしまいそうだが、土留壁の石には踏まれた跡があり、注意するとマーカーリボンがある。
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岩壁上のトラバース道から展望、水湳洞の集落はすでに足下 |
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眼下に黄金滝 |
8時11分、雑木で薄暗い場所から急坂が始まる。路線2と記された紙が石の上に置いてある。雑木林が切れ、ススキの間を進む。勾配はずっときつい。道はしっかり踏まれて、見失うことはない。8時23分、開けた展望点で休憩する。すでに約200m登ってきた。ほぼ海抜0mからのスタートなので、標高がそのまま登攀した高度だ。
休憩場所のすぐ上から、しばらく岩壁が続く。岩壁といっても岩の間の溝を進むので、ロッククライミングではない。なおかつすでに補助ロープがあるので、難しいことはない。二段の岩セクションを過ぎる。登ってまた少し、別の岩セクションを過ぎる。登り切ったところから、そのまま登っていく道筋がある。マーカーリボンは、左側にトラバースする道についている。直進道はそれなりに歩かれているようなのでおそらく問題ないと思われるが、慎重をとり左に巻いていく。草のトラバース道からは、周囲の景色が広く展開する。眼下には黄金瀑布、その手前を車道が蛇のようにうねり、
黄金二、
四稜や
劍龍稜などの尾根を従えた半平山が、頭に雲をかぶり広がっている。
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稜線上の岩場を登る |
麓から見えていた尾根上を進む一本道を登り始める。斜面は急で、幸い二日続きの好天のため乾いているが、脇の草や補助ロープをつかまないと滑ってしまう。9時23分、最後の岩場セクションを登る。一部はオーバーハング気味だが、ロープを頼りに登れば越せる。東峰の頂上はもう射程内だ。最後の急坂を登り、9時44分、東峰頂上(標高467m)に着く。約2時間の登攀だった。事前に想像していたよりは、簡単な登りだった。勿論、天気が良いこともプラスになっている。
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東峰山頂の筆者 |
風もあまりなく、冬にしては温かい今日の頂上は、実に快適だ。広がる海と背後の山々、基隆市街さらに遠く陽明山山系の竹子山が、眼を180度回せば今度は半平山から海へと落ちる稜線の数々が展開している。そして目の前には、基隆山主峰がデンと座っている。頂上へと続く黄金一稜上には一筋の山道が続いている。
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東峰頂上のメンバー |
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東峰から海側をのぞむ、眼下に陰陽海(濁った水の海) |
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基隆山主峰方向を眺める |
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黄金一稜を登る、背後は東峰 |
10時4分、主峰に向け鞍部へ下り始める。かなり急だが補助ロープもあり問題ない。すぐに鞍部へ到着、そこから登り始める。ススキの間の道は、しっかりと踏まれている。10時16分、稜線上のコブへ急登を登る。ここで一人下ってくる登山者と行違う。彼は、実は本来我々と一緒に登るよう、メンバーに一人が誘ったが、集合時間の変更を知らなかったようで落ち合えず、一人主峰から登ってきたとのこと。とりあえず東峰へ往復するという。急登の部分は、前回の来訪以降多くの登山者が登ったためか、まったく困難には感じずに通り過ぎた。
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稜線上にある台陽鉱業会社の基石 |
無名のコブ上には、台陽礦業会社の基石がある。台陽礦業とは、日本時代にこの九份の金鉱利権を有しまた台湾北部に多くの炭鉱を持つ、当時の財閥顔ファミリーの会社であり、この地を取り仕切っていた存在である。その会社が、土地所有のマーカーとしてこの基石を埋めている。少し下って、別の台陽の基石を見た後、主峰への最後の長い登りを行く。左の金瓜石の谷には、学校の校庭などが望め、その上には先ほどの雲が消え頂上を見せた半平山から燦光寮山,樹梅山,牡丹山へと続く山並みが、金瓜石の谷間を取り囲んでいる。最後のススキの間の登りを過ぎ、10時46分基隆山頂上(標高588m)へ着く。広い頂上には、数名のハイカーがいる。
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ススキの間の最後の坂を主峰へ登る |
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基隆山主峰頂上 |
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基隆市街方向を望む |
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金瓜石方向を望む |
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基隆山を下り始める |
11時前に今日の主要な山頂に到着した。早めの昼食をゆっくりととる。ここからは、東峰頂上から望める直下の陰陽海は見えないが、それ以上に広い360度の展望ができる。基隆山は、そのピラミッド型ピークで、遠くからも容易に判別できるが、今日は逆にこの基隆山を望んだ山々が、それぞれはっきりと望める。台北の街も101ビルを含め、判別できる。今日は幸い可視度が高い。過去歩いてきた山々を、この頂上から望むのは、また感慨深い。
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石畳が敷かれた山腹道、遠方は五分山 |
約40分の休憩後11時26分、下山を始める。まだ12時前だ。そこでこのままバスで帰るのではなく、九份の街を抜けさらに軽便道から琉瑯古道を経て瑞芳へと下ることにする。石段道を数分下り、右に土の道をとる。こちら側の道は、山腹を迂回していく道で、尾根上を進む石段道とはまた別の展望ができる。土の道は、ジグザグに下り始めると石畳となる。前回はこうした石は敷かれていなかったので、その後に工事があったようだ。
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バスや車の多い102号公路 |
11時44分、反射板を過ぎ展望台がある。その先ももう一つ展望台を過ぎ、11時55分尾根上の石段道と合流する。その先少し進み、12時に102号線の登山口に着く。ここからは観光地だ。車やバスの往来が繁く、大勢の観光客が道を歩いている。ちょっと、場違いの感じだ。老街の入口は人でごった返している。混雑を避け、その少し下の階段を軽便路に下る。軽便路は、その昔トロッコが往来した道だ。軽便の名の由来はまさにそこから来ている。
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頌德公園から見る基隆山と九份の街、街の上方には墓地 |
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頌德公園 |
軽便路を左に進んでいく。ほぼ平らな道は、にぎやかな老街の下を平行に進み、昇平戲院の脇や、千と千尋の神隠し動画のモデルとなったされる茶屋の下を過ぎていく。人混みもほぼここまでだ。その先さらに進んでいく。左から老街方向からの道を合わせる。12時21分、頌德公園へ着き一休みする。ここは、先ほどの台陽会社のオーナー、この地のドンだった顔ファミリーの記念地である。九份の街、そして基隆山が一目できる。公園の端からは、小粗坑古道が侯硐へと続いている。
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軽便路のトンネル |
12時36分、歩き始める。道はすぐに左に折れ、トンネルをくぐる。このトンネルも千と千尋の神隠しの中で、初頭に現れるトンネルのアイデアになったという。トンネルを抜けてまもなく、左に琉瑯古道が始まる。左の車道は102号につながる。102号公路は、1954年に開通したもので、それ以前は現在の琉瑯古道が主要な九份への道であった。当時の金鉱ブームで増えた交通量に対応するため、1931年に開通したこのシステムは、下部はロープウェイ式にトロッコをロープで引っ張り、山腹を行く平らな道は人力で押していったようだ。
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線路敷に石畳を敷いた古道、左の穴は骨壺があった |
石畳が敷かれた、軌道敷跡の脇の山壁には、墓がいくつかある。立派な墓もあれば、穴を掘っただけの簡素なものもある。今はほとんど遺骨は他に移されているようだ。一攫千金を狙って集まった人の中には、成功して錦を故郷に持って帰った者もあれば、失意のなか一生を終えた者もいただろう。九份の街の街は、遠くから眺めるとすぐ上に墓地が広がる街でもある。台湾の墓は、日本と違いちょっと見ると小屋みたいに見え、なおかつ色彩豊かなので、日本人の目からみるとそれほど暗い感じはない。
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流籠頭、右は三爪仔坑山と五分山 |
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昔はケーブルがあった坂 |
12時47分、流籠頭の広場に着く。流籠頭とはケーブルシステムの大きなプーリーやその機械が据え付けられていたところだ。もちろん今は跡形もなく、石畳の広場にはベンチがあるのみだ。道はここから下り坂となる。石段で降りていくが、以前はここにはレールがしかれていたのだろう。12時53分、トンネルを通過、その先切通しを過ぎていく。13時4分、最後に登り返し102号車道に出る。立派な琉瑯路觀光步道と記された石碑がある。下っている途中に二人のハイカーとすれ違ったが、この道を通る観光客がどれだけいるのか。
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トンネルを抜ける |
車が頻繁に通り過ぎる102号公路を下っていく。左から侯硐からの道を合わせ、進んでいく。車道は陸橋で鉄道をこえるが、歩きであればそのまま直進し地下道で鉄道の反対側にでる。すぐ陸橋からの102号公路と合わせ、線路沿いに進んでいく。天気が良く、車道を歩くと暑いぐらいだ。廃棄された旧鉄道トンネルをくぐり、瑞芳の街に着く。13時39分、瑞芳駅に戻ってくる。13時54分発の区間電車で台北へ帰った。
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琉瑯古道の入口 |
今回は、思っていたよりは簡単であった。遠くから見ると、基隆山はかなり急な斜面で、なおかつ岩が露出している。そこで少し懸念したのだが、行ってみれば岩場はそれほど困難でなく、天気もよかったので実に快適な山行だった。もちろん天候が悪ければ、滑りやすく、強風が吹けば危険だ。時期としては、夏は暑くて大変なので、今回のような好天の晩秋や冬が一番よい。歩行距離8.6㎞、休憩込みで5時間半の行動時間である。困難度は、基隆山の東峰直登及び黄金一稜ルートはレベル4、その他はクラス2、体力的にはクラス3だ。前半は経験者向け、基隆山主峰以降はだれにでもおすすめだ。
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