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2016-12-04

2016年12月2日~3日 畢祿山 - 羊頭山縱走 初冬の3000m峰縦走

合歡山東峰の登り途中から見る畢祿-鋸山-羊頭山の連山
台湾の3000m高山は、雪が降るが日本の中央山岳地帯に比べればはるかに少ない。もちろん厳冬のころは頭に白く雪をかぶった峰々が現れる。その量は少なく期間は短い。今回はすでに12月だが、まだ雪はなく予想していたよりずっと寒くない畢祿山(標高3371m)から羊頭山(標高3035m)までの縦走を一泊二泊で行った。筆者の台湾3000m高山登山簡単ガイドで記載した、中央山脈の北二段の最南部に位置する。山のすぐ下を中部橫貫公路(中橫公路)が走り、高山だがアクセスはよい。それなりの時間は要するがそれぞれの山は一日単独登山も可能だ。
西側大禹嶺からスタート東へ縦走
歩行プロファイル、820林道はほとんど上下なし
前日の合歡山三山登山のあと、第14甲公路と中横公路が合わさる大禹嶺の民宿に一泊、早朝から出発、820林道(廃棄されて久しく、木材搬出の林道としては機能していない)を8.4km歩き、そこから急坂の1.8㎞で700数十mの落差を登り稜線に上がる。稜線からすぐにあるキャンプ地で設営、畢祿山山頂を往復した。翌日は撤収後、鋸山連峰の七つのピークを越え、鋸山東峰近くの羊頭山への分岐へ行く。そこで重装備を置いて羊頭山を往復、慈恩橋登山口へ下った。稜線上のキャンプ地は水場がないので、必要な水を担ぎなおかつテントなどを背負って登るため、10月末に行った武陵四秀の縦走に比べるとその分だけきつかった。

中央山脈第二段最南端に位置する、北側一、二、三段の山々や雪山山脈の山々が展望できる
台湾百岳全集によると台湾百岳の一座畢祿山(碧綠山とも呼ばれたそうだ)は、1962年に台湾高山登山の先輩たちにより初登頂されたそうだ。当時はまだ登山道も遠く、登頂は大変だった。その後1972年に森林資源開発で畢祿山のふもとを中横公路から820林道が開かれると、そこから畢祿山に直接登る道が切り開かれた。今は820林道を進み、そこから畢祿山へ登るのが一般的だ。畢祿山南峰を経由して登る以前の道は、ほとんど歩かれていない。今はこの道が、鈴鳴山から縦走してくるのでなければ、唯一の登山道だ。

一方、日本時代の登頂として台湾山岳(日本時代の台湾山岳会機関紙)第7号に掲載された千々岩助太郎等4名のメンバー(それに日本人警備隊や原住民道案内ポーターが同行)が1932年8月10日に、今でいう中央山脈北一段、二段の縦走を畢祿山から北に無名山や中央尖山、南湖大山を越えて縦走する、一番初めの峰として登っている。当時は、もちろん中横公路などはなく、沢を遡り尾根に取り付いて登頂している。

稜線キャンプ地から望む夕景、合歡山北峰の向こうに陽が沈む
もう一つの羊頭山は、遠くから見ると羊の頭に見えることからの命名ということだ。1971年に選定された台湾3000m峰の百岳の一座である。百岳の選定の過程で、台湾山岳会に隷属する百岳クラブが、この山がちょうど一万尺になるので、ここでクラブ成立がされたという。この山は、以前はあまり注目されなかったが、畢祿山と同じで中横公路ができたことにより、アクセスがよくなり多く登られるようになった。

畢祿山山頂から鋸山連峰と羊頭山(最左)を見る
820林道高巻部分を行くメンバー
この二つのピークの間には、実はもう一つ別の山がある。鋸山(標高3300m)である。この名前は昨日の合歡山東峰から見た山容で、問題なくうなずける。鋸の歯のように、七つのピークが連なっているからだ。ちょうど中間の第四番目のピークが鋸山として、名前を記した石が置いてある。三角点はなく、その意味では目立たないが、この連続した上り下り、そして岩場も現れ、シラビソ、ツガの大樹そして台湾矢竹の道は、重荷を担いではきついがとても特徴のある縦走路だ。

今回の山行は、本来7名のメンバーで前回と同じようにシャトルサービスで行く予定だった。ところが直前にメンバー二人がいけなくなり、幸いメンバーの一人が自家用車を提供、自分達で運転して訪れた。ただ出発点と下山点が異なり、間には20キロの距離があるので、大禹嶺の民宿のシャトルサービスで慈恩橋から大禹嶺へ戻った。

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第一日 12月2日(金曜日)

第一日は前半林道歩き、そして落差700mの山道急登
第一日の歩行プロファイル
早朝合歡山隧道のメンバー
前日に泊まった、大禹嶺の民宿では雨音が聞こえていた。昼間は予想よりはるかに良い天気で、問題ないと思っていたので、少し意外だ。朝食を済ませ、5時半過ぎに出発する。外に出ると、星が見える。天気は大丈夫だ。まだ夜明け前の中横公路合歡山隧道を抜け、すぐ右に登山口を見る。道脇には車が二台停めてある。おそらく登山者のものだろう。入山入園許可書を登山口の投入箱に入れる。入れ忘れると減点され将来の許可申請に影響するので、必ず投函することが大切だ。

820林道3㎞地点を行く
ヘッドライトを頼りに進むが、道の状態はよい。100m毎に現れる里程ポストが、1㎞を越えるころ明るくなってくる。今は車の通行は不能の820林道は、ほとんど平らな道だ。廃棄後かなりの時間がたち、ところどころ土砂崩れで道が途切れるが、その数や高巻く程度は今まで歩いたほかの廃棄林道に比べるとまだまだよい。途中で一度休憩し、服装を調整する。気温はおそらく10度以上だろう。

左に合歡山北を望み崖崩れ高巻部分を行く
林道から雪山山脈を遠望、左は白姑大山
林道に残されたバイクの残骸
7時過ぎ、樹木の切れ目から遠くに雪山山脈が見える。主峰から南に延びる稜線上の峰々だ。その左にまた高く盛り上がった山は白姑大山だ。7時半過ぎ4.9㎞キロポストを過ぎてまもなく、壊れたオートバイがある。エンジン部とハンドル及びフレームがバラバラになっている。マフラーのメッキはまだまだしっかりしている。いつ頃に捨てられたのか。7時43分、林道は枝尾根を回り込み、左前方に畢祿山が現れる。ここから見ると森林限界を超え草原が頂上下の面を覆い、横に広がる山頂だ。その先、大水で崩れた場所に梯子が掛かっている。8時2分、6㎞キロポストの広場で休憩する。

6㎞地点で休憩
廃棄作業小屋を過ぎる
林道から畢祿山を望む
林道歩きの終点、テント場でもある
約二時間で6㎞をカバー、残りは2㎞強だ。9時、7.5㎞キロポストがある廃棄された現場小屋を通過する。屋根だけの小屋の下にはテントが張ってある。後に登りの際すれ違った、単独峰ピストン登山の登山者のものだ。9時19分、8.3㎞キロポストを過ぎると、急な坂を大きく下り、小滝のある沢を越える。登り返すと8.4㎞キロポストが現れ、9時30分林道歩きは終点となる。2時間半の道のりだった。休憩の間に、下方の別の沢で水をくむ。今回はメンバーそれぞれで共用の物資を分担して背負うが、水運びは筆者の役割だ。自分用の水のほかに5リットルを担ぐ。水が加わったので、ザックはずっしり重くなる。おそらく20kgぐらいだろう。

登山口、この沢で水をくむ
途切れない急登が続く
9時55分、いよいよ急坂の登山道を登り始める。道標には、あと1.6㎞とあるが、実は正しくは1.8㎞だ。この道は、標高差700数十メートルを登る。勾配はずっときつく、途切れない。100m毎に増えるキロポストが唯一の慰めだ。30分ごとぐらいに休憩し、松葉の落ちる道を登っていく。12時、樹木がきれ奇萊北峰が背後に見える。9.6㎞キロポストを過ぎてすぐ、12時半に数メートルの岩壁の下に来る。補助ロープが掛かっているが、荷物が重いのでつらい。林相もツガが主要な樹木になる。13時半、10㎞キロポスト過ぎると、樹木が切れ矢竹の中の急登になる。林道から見えていた草原の部分だ。道は深く掘られて登りにくい場所は、重荷であえぎながら登る。振り返れば、手前の枝尾根越しに合歡山も見えるようになる。14時8分、10.2kmキロポストのある稜線分岐に着いた。

矢竹の草原の中、最後の登りを頑張る
テント場についた、前方に平らな場所で設営
左に行けば畢祿山山頂だ。右に約100m進みキャンプ地へ行く。キャンプ地といっても、稜線上の矢竹の間の平らな場所である。数張りのテントが設営できる。テントを取り出し設営する。樹木もない吹きさらしの稜線だが、今日は風もなく穏やかなので助かる。設営を済ませ、テントの中に入り一息つく。奇萊東稜と合歡山で囲まれた谷間や反対側の花蓮側の谷は雲で埋まっている。雲の下は天気が良くないが、ここは雲上の好天だ。

テント場から花蓮側を望む、雲海が谷を埋める
畢祿山への途中から見る奇萊北峰と合歡山群、雲海が谷をうめる
畢祿山山頂の筆者、背後に無名山や北一段の山々
16時前、畢祿山山頂へ向かう。数分で山頂に到着する。ここは絶好の展望点だ。北には南湖大山の大きな山塊、それと対照的な三角ピーク中央尖山、さらに近くには北二段の無名山の大崩落岩壁が目立つ。視線を反対側に向けると、明日歩く予定の鋸山連峰と、その左端に平らな頂上の羊頭山が連なる。連峰の向こうに二つのピークが雲海の上に島の如く浮かんでいる。太魯閣大山や立霧主山だろうか。これら山々にいずれは登りたい。

頂上のパノラマ、左に雪山山脈、右に中央山脈
夕暮れ迫るテント場
約30分ほど山頂で過ごし、キャンプ地へ戻る。夕食を用意し食べる。乾燥米とレトルト食料だが、それなりに美味しい。水だけで処理できるので手間もかからない。食事を終え5時過ぎに外に出ると、空は赤く夕陽に染まっている。合歡山北峰の向こうに陽が沈んでいく。十数分の夕焼けのドラマを楽しんだ後、テントに入る。8時過ぎに就寝する。テントにパラパラと音がする。雨だろうか。そうしているうちにまどろんだ。

夕闇が迫る
残光の中奇萊北峰と合歡山で囲まれた谷に雲海

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第二日 12月3日 (土曜日)

鋸山連峰を越え、東に羊頭山へ縦走
基調は下りの歩き
夜明けのテント場から西側を望む、昨晩の雲海はすでに消えている
朝日の中の奇萊北峰
四時過ぎに起床する。テントの外に出ると、星空だ。昨夜のパラパラは一時の雨だったのだろう。食事を済ませ、テントを撤収する。すでに明るくなった6時15分、縦走路を歩き始める。道はすぐ登り始める。背丈より高い矢竹の中を行く。よく歩かれている道で、踏み跡は全く問題ない。森が切れると、右側に長く伸びる奇萊東稜の真んなか盤石山だけに雲がまつわりついている。急な上り下りで第一、第二ピークを越えていく。森はシラビソが中心だ。陽光が矢竹を通してまぶしい。7時、第三ピークは頂上下を巻き、その先0.6㎞キロポストで大きく左側に下っていく。

朝日の差し込むニイタカトドマツの森を進む
大きく左側に下っていく
縦走路上の岩場第四ピーク
岩場上からの展望
岩場上から北側遠くに雪山山脈を望む、手前右のピークは鈴鳴山
鋸山山頂
7時40分、1㎞キロポスト(稜線分岐から起算)を過ぎるところで、少し開けた場所がある。ここでも一、二張りならテント設営できる。登り返していくと、岩場が現れる。登り切ると、展望が開ける。8時4分、鋸山山頂に着く。西側に畢祿山山頂が見える。登山者が一人頂上目指して登っている。冬のこの時期は、冷杉(ニイタカトドマツ)の黒っぽい松ぼっくりが白い樹脂を流している。

シラビソの種子
タイワンツガの枝ごしに奇萊北峰を望む
8時37分、1.3㎞キロポストを過ぎ、また落差のある岩壁を登る。ここで第五ピークだ。ここからは、下り基調だ。太い倒木を乗り越していく。1.5㎞キロポストをすぎてまもなく、また別の開けが場所がある。設営可能だ。9時28分、休憩をとる。ここで後方から二人のトレールランナーがやってきて追い越していく。彼らはほとんど空身なので軽快に下っていく。岩場のトラバースを過ぎ、9時51分森がきれて前方に鋸山東峰とその左に羊頭山が望める。

前方岩壁を左にトラバースする
前方左に羊頭山が見える
矢竹の間を下る。9時58分、森の中の大きなキャンプ地にくる。ここはかなりの数のテントが張れそうだ。ただ水場はない。更に下る。また矢竹の草原を過ぎる。登り返し森の切れた場所で振り返ると、鋸山のピークはすでに高い。この辺りはツガが中心で、小さな松ぼっくりがたくさん枝についている。松林を通り過ぎ11時10分、羊頭山への分岐に着く。ここで昼食休憩を取る。

前方に奇萊東稜の長い尾根が伸びている
羊頭山への分岐部
森の中を羊頭山へ向かう
11時35分、羊頭山へ向かう。分岐の標高は3000m強で、羊頭山とほぼ同じ高さだ。しかし一度下って登り返す。途中には上り下りが現れ、距離は1.1㎞だがそれなりに遠い。森の中の道を進み、最後に登り返して12時30分羊頭山に着く。頂上には数名のトレールランナーが休憩している。頂上からは、かろうじて畢祿山山頂が見えたが、それもすぐに霧の中に消えた。10分ほど頂上で過ごしたあと、往路を分岐へ戻る。13時30分に分岐から再び重荷を担いで、下り始める。

羊頭山山頂
濃霧の草原下る
下山は、距離3㎞標高差1000mだ。畢祿山ほどではないが、こちらのかなりの急坂だ。霧が結構濃く、草原を通過する部分でも展望はない。でも、昨日今日の午前と、十分に展望を楽しんだので悔いはない。14時12分、2.2㎞を過ぎたところで一度休憩する。重荷での下りは、足に来る。道にはかなりの部分にわたり補助ロープが張ってある。かつて訪れたことのあるメンバーの一人は、以前はこれほど長くなかったという。道迷い防止のためでもあるのだろう。林は末から雑木林になっていく。一度緩くなった坂は、また急になる。

登山口から岩場を下り左のトンネルによじ登る
15時22分、ステンレス梯子を降りる。0.5㎞を過ぎ、15時43分また別のステンレス梯子を下る。16時過ぎ、登山口に着く。この登山口は、脇の中横公路へ下るには岩場を下らなければならない。尚且つ、土砂崩防止トンネルの脇で、欄干をよじ登る必要がある。ちょっと大変な登山口だ。下りの途中で電話連絡しておいた民宿の車が待っていた。民宿でシャワーを浴び、台北への帰途に就いた。



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左から南湖大山、中央尖山、無名山、次の目標だ
今回の山行は、二日で水平移動距離20.5㎞、累計で1800mの登りである。心配した天気は問題なく、なおかつ予想より暖かった。暖冬であることも関係しているが、おかげで寒さに苦労することなく、初冬の3000m高山を満喫できた。テントを担ぎ、水も持っていかなければならない。縦走でなく単独ピストン山行が多いのもうなづける。しかし、縦走には縦走の良さがある。天気がよい稜線からは、夕刻の山並みや雲海がとても美しい。苦労にみあう縦走ができる。

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