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2021-09-06

2021年9月2日 宜蘭大同鄉中嶺山 山中池塘と日本時代警備道の山を訪ねる

中嶺山山頂
台灣 の東北端三貂角(岬)から立ち上がる雪山山脈は、台湾北部の西側と東側を分ける分水嶺でありまた県境でもある。山脈の西側に落ちる水は台湾海峡に流れ、東側に降った雨水は太平洋にそそぐ。今回訪れた中嶺山は新北市烏來區と宜蘭縣大同鄉との境界上にある山だ。中嶺という名の山はここだけでなく、身近では新北市石碇區にもあり、何度か訪れている。今回の中嶺山はそれとは異なる。烏來も大同もともにタイヤル族原住民の領域でもある。彼らの言葉ではバボー・ムロヤワン(かつて行ったことのある山という意味だそうだ)と呼ばれた。

八字型に歩く(立ったリスのような形)
登山場所の位置関係
日本統治時代、烏來側のタイヤル族を管理するために隘勇路や警備道が設けられた。それは大同側のタイヤル族に対しても同様に設置された。中嶺山の東側山腹を行く中嶺古道と呼ばれる道がある。この道の前身は今は福山と呼ばれるリモガン社からハブン (哈盆)社を経て東側崙卑子社へと続く警備道であった。ハブンから崙卑子へのセクションは、昭和10(1935)年に中嶺山中腹枝尾根上の広い場所に駐在所とともに設けられた。比較的後期に造られたこの道は、すでに帰順しているタイヤル族の通行や殖産という目的が大きく、初期の原住民との紛争を解決するという目的はなく、少し性格が異なるといえる。

崙卑池,背後に調査中のボート
今回の訪問は、宜蘭側から大同鄉役場のある崙卑村から山に入り、崙卑子山下の果樹園まで車で登り、そこから歩き始めた。古道の一部と思われる崙卑子山・紅柴林山の南側山腹の道を進み、先に崙卑池と中嶺池を訪れ、その後中嶺山を登頂した。下山は稜線をさらに進み、下って中嶺古道を経由、時間に余裕があったので紅柴林山と崙卑子山を登り、果樹園へと戻った。この山のさらに南西には有名な松羅湖がある。訪れた二つの池は、それに比べると小さく訪れる人も少ない秘境的な存在だ。希少な水生植物もあり、保護の対象になっている。

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大同鄉役場前広場のタイヤル族像
登山口まで時間がかかる。さらに訪れる人も少ない山域であるので、道の状態が良くない可能性がある。そこで台北を5時に出発する。今回は車一台5名である。早朝の第5号高速は非常にスムースで、5時40分すぎ高速を降りてコンビニに立ち寄る。まだ夜明け間もない水田地帯からは、今までに登った蘭陽平野の縁に屏風のように連なる山々がたたずむ。台7号線を進み、6時15分大同鄉役場(公所)前の広場に着く。まもなくもう一台の二名がやってきて合流する。

果樹園から見る大パノラマ
果樹園脇から歩き始める
山に向けて谷間を進み、右に果樹園への道を登る。山腹にある紅土咖啡への道しるべが所々にある。途中で左に折れさらに高度を上げていく。大同鄉役場から約20数分で果樹園に着き、車を駐車する(標高約700m)。開けた果樹園からは、早朝の山々が蘭陽溪の谷間の両脇に雄大に展開する。谷の右側(左岸)は、拳頭姆山から台7甲線の峠である思源埡口へとずっと長く峰々が続く。その対岸は、太平山から南湖大山へと続く中央山脈の山々だ。

山腹道の入口
紅柴林山への分岐
7時過ぎに歩き始める。駐車場所から少し道を戻り、右に折れる。その少し先で草にふさがれた山道が始まる。山腹道の入口だ。草深いところを過ぎると、森の中の広い道になる。そしてまた草に覆われた場所を過ぎる。地図では草地の右端を行くが、踏み跡はない。それらしいところを行くと、両側の草が覆いかぶさるが、またしっかり道になる。山腹道は少しづつ高度を上げていく。

南湖大山の山塊を望む
まだ新しい道しるべ
7時48分、稜線上にあがる。ここは右に紅柴林子山へと道が分かれる分岐でもある。新しい道しるべが取り付けられている。左に木々の間から、南湖大山などの山が望める。7時51分、左から谷を上がってくる道と合流する。この道も状態はよいようだ。その先3,4分で鞍部十字路が現れる。休憩をとる。

十字路鞍部
崙卑池へ向かう、道筋はOK
十字路の道は、右は中嶺山山腹を行く中嶺古道、真ん中は稜線を中嶺山方向へ行く道だが、草に埋もれている。左は崙卑池へと続く。左の道をとり、山腹を登っていく。この道もそこそこ良い。8時22分、左に崙卑池への道を分ける。ここから10分足らず登って最高部を通り過ぎ、少し下る。左に崙卑池が木々の向こうに広がる。ここは四方を山に囲まれた窪みで、水がたまり池となっている。8時39分、池の端に降り立つ。池ではゴムボートに乗った人が調査をしている。宜蘭大学の環境調査研究のようだ。池の周りを囲む少し沼状の部分を行く。気を付けないと足をとられる。林務局の説明板の前で小休憩をとる。

木々の間から崙卑池を垣間見る
林務局の説明板
涸れ沢底の急坂を登る
9時少し前に往路を登り返す。まだ新しい林務局のマーカーリボンが目立つ。このルートは林務局の巡山員が来ているのだろう。分岐を左に進むこと、2,3分でまた別の分岐に来る。左にそのまま行けば拳頭姆山へと続く。右に折れて急坂を登る。道はそのうち涸れ沢の底を登る。9時33分稜線に上がる。右から先ほどの十字路鞍部からの道を合わせる。古い道しるべがあるが、新しいものはない。道は、崙卑池までの道と比べると程度が落ちるが、草が刈られている。最近誰かがこのルートで草を刈りマーカーを付けたようだ。ただ、棘などがまだ残り、注意しないと衣服に引っ掛かる。森からでると、日差しが強い。9時46分中嶺池への分岐に着く。休憩をとる。風が吹いており、気持ちが良い。

中嶺池と中嶺山との分岐点
中嶺池:広い草原の一部に池

山道に陶器の破片
途中で蜂に刺されたメンバーとほか一名が分岐で待つ一方、10時6分残り5名で中嶺池へ向かう。道は少しの登りのあと下っていき、13,4分で池の端に出る。ここも周囲の小高い丘に囲まれた池である。水のある部分はその窪みの少しの部分で、ほかはカヤが茂る。少しやわらかい草地を水辺へと進む。そよ風が吹き抜け、日陰だと実に快適だ。めったに人が訪れない秘境で、ゆっくりと過ごしたいが、まだ先がある。記念写真撮影後、往路を分岐へと戻る。

小さな登り下りを行く
一部ヤタケの間を進む
10時50分、待っていたメンバーを加え分岐を左に折れて中嶺山を目指す。尾根は広く全体に緩いが、道は小さな登り下りがある。このセクションも草が刈られ、マーカーもまだ新しい。まばらな広葉樹林の下草は、背の低いシダ類などだが、一部背の高いヤタケを藪漕ぎする。11時19分、広めの平らな中嶺山山頂につく。本来三角点があったが遺失したそうで、樹木に山名板(標高1059m)が取り付けられている。日陰で昼食休憩をとる。

@中嶺山山頂
稜線から下り始める、蘭陽平野が見える
急坂を下る
12時前、山頂をあとにする。ここから先の道もマーカーも十分にあり、草刈りもされているようなので、予定通り稜線を下り中嶺古道へ降りる。一部は地図と違う部分もあるが、ほぼ稜線にそって進む。25分ほどで道は稜線を離れ、急坂になる。まばらな樹木の遠く向こうに、蘭陽平野上の田畑や家屋がかすんで見える。雑木林はそのうち杉人造林に換わる。12時46分、急坂が終わり小沢を渡る。緩くなった杉林の間の道を行き、12時51分古道に着く(標高790m)。ここは現地人が狩りにきて泊まる獵寮のようで、帆布などや焚火跡がある。休憩をとる。

中嶺古道の獵寮
古い道しるべ
沢を越える
中嶺古道は、左に行けば紅柴山や哈盆古道へと続く。過去は多く歩かれたのか、すぐ近くに鉄製柱の道しるべがある。とても古いもので取り付けられている板は半分腐り、文字は全く判読できない。いずれこの道を歩いてみたいものだが、沢沿いに進んだりするのでがけ崩れなどでかなり時間的な余裕がないと難しいだろう。20分ほどの休憩後、右に古道を進む。まもなく沢を越す。古道の状態は、それほど悪くない。道筋ははっきりしている。道は沢を数か所横切るが、みな普段は水流がなく、崩れている程度も低い。道は登り気味に進み、13時半過ぎ杉林の中で最後部(844m)を越す。道は、崩れた沢底に降り、登り返す。13時45分右に回り込むと焚火跡がある。その右奥はかなり広い平らな場所だ。空瓶や建物の基礎コンクリが残っている。ここが中嶺駐在所跡だろう。焚火跡まえで休みとする。

古道を行く
杉林の間を登る

中嶺駐在所跡
崖崩れを横切る
古道も半分以上やってきた。時間もまだ早い。そこで帰りは山腹道ではなく稜線を紅柴林山と崙卑子山を越えて果樹編へと戻ることにする。15分ほど行くと、大きながけ崩れが現れる。石が積み重なる部分の先は、かなり草が生え、崩れてからそこそこ時間がたっているようだ。14時38分、朝に通過した十字路鞍部へ着く。そのまま進み、二つ目の分岐から稜線を紅柴林山へと登る。この部分も草が刈られている。今までと同じ人による作業だろう。黃藤などの棘の植物が多く、刈り残した枝が引っ掛かる。標高差はそれほどないが、道の状態がもう一つなので時間がかかる。15時12分紅柴林山山頂(標高785m)に到着する。基石はなく、倒木に山名板が取り付けてある。最後の休憩をとる。

紅柴林山山頂
崙卑子山山頂
最後の藪漕ぎ
今までと同じような稜線上の道を行く。12,3分ほどで崙卑子山山頂(標高772m)が現れる。ここには今日唯一の三角点〈二等)がある。今年二月に日付の新しい標識も取り付けられている。山頂から先に道がない。少し戻ると左に下る道を発見する。急坂を下り、廃棄された果樹園の作業路と思われる道に降りる。すぐ下に自分たちの車が見えるが、なかなかつかない。そのうち雨が降り出す。それを少し行き、また急な坂を下りていく。下段の作業道に降り、道なりに進む。16時12分果樹園の駐車場所へ戻る。振り返ると先ほど雨に降られ始めた高さ以上は霧の中だ。着替えを済ませ、16時半帰途につく。
果樹園に戻る、右に我々の車

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登山者があまり訪れない山域である。最近の山行のように自分で草を刈って進むことを覚悟していったが、状態は想定以上に良かった。時間が不足した場合は中途で帰ることも考えていたが、スムースに予定コースを歩き、さらに予定外の登頂もした。休憩もそこそことったが、活動時間は9時間、距離10.7㎞である。累計で620mの登坂、コース定数は26だ。登坂高度は高くないが、道が悪ければそれなりに苦労するルートでもある。


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