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南子吝山と海、右に南雅の集落、左奥には基隆嶼。尾根の登り途中から撮影 |
台湾東北端の山々は、今まで数回訪れているが、海に近く冬季季節風の東北風が吹き付ける斜面は、いずれも樹木が育たない。その隙間を草が埋めている。草の山道は、夏の強い太陽のもとで歩くには、とても大変だ。今回の南子吝山は、まさに草の山、そこから南に石梯坑山の方向に伸びる尾根道も、かなりの部分が草の道である。標高は最高点でも300数十メートルで、決して高くないが、尾根をストレートに追っていく道は、補助ロープでよじ登るような急坂も多く現れるので、その高さや距離の割りには疲れる。
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北側の南雅から回遊するルート |
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ほぼ海抜0からスタート(後半2キロは表示なし) |
昨年11月に、この東北角(端)の山、
和美山から西へ縦走し、草山の麓まで尾根を追った。今回の山行は、この尾根方向に向かって進むルートである。今回は歩かなかったが、一番南の石梯坑古道の分岐から更に進めば、数百メートルでこの尾根へたどり着く。石梯坑古道は、付近に炭鉱があったそうなので、草山の麓を通って九份や金瓜石へ、あるいは澳底や福隆へと歩かれた道なのだろう。当時の人が往来安全を祈願した土地公の石造祠もある、歩きやすい山道だ。
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今回のルートは、東北角の山でもかなり海に近い場所 |
台北駅を6時35分発の基隆行き区間電車で出発する。日本でも登山経験のあるHさんと落ち合う。次の松山駅では、よく参加するLさんが乗車する。今日は、三人の登山だ。登山口の南雅へは、基隆駅から791番バスで向かう。7時40分ごろにやって来たバスは、乗客もまばらだ。40分ほどの乗車で8時20分に南雅へついた。空は曇っている。雨さえ降らなければ、草の尾根をこれから登るには好都合だ。南雅の集落に入ると、すぐに南子吝山登山道の道標が目に入る。歩道は現在修理中で、不通という案内がある。この道を登らないと、次に行けないのでどんなものか、行ってみる。
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南子吝山の登りから見る南雅の集落、その先は鼻頭角 |
道はすぐに木製の階段が始まる。階段は、ところどころ腐って穴が開いている部分がある。この修理を行うために、不通としているのだろうが、普通の往来には全く問題ない。これよりはるかにひどくても、放ったらかしの道はたくさんある。登りはじめ数分で、解説のある展望台がある。南雅の集落が下に見える。その少し上で木階段は終わり、石と土の階段道となる。ゆるいジグザグの道が続く。木階段最終点から十数分の登りで、尾根にたどり着き、展望が開ける。樹木がないので全方向望めるが、高度が上がったので、
半平(屏)山や草山、海のすぐそばの
基隆山などが見えるようになる。草山の頂上は、少し雲がかかっているが、青空も見えるようになる。海がとても青い。
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南子吝山頂上の風景、左から、草山、半平山、基隆山。沖には基隆嶼 |
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南子吝山頂上からの風景、東方向を望む |
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草の稜線に咲く野牡丹の花 |
前に四人のパーティーが歩いている。後を追いかけるように、尾根を進み8時48分南子吝山頂上(標高196m)に着く。わずか30分の登りだ。ここからの眺めはとても良い。半平山の尖ったピークが空を刺す。尾根を右に追えば無耳茶壺山がちょこっとと載っているが、こちから見ると急須(茶壺)の形は分からない。これから歩く尾根筋は、頂上から少し戻ったところから始まる。草深い踏み跡が下がっていく。身の丈ほどの草をかき分けての歩きとなる。下り始めてすぐ、野牡丹の花が咲いている。この後も、尾根上で野牡丹の紫の花をたくさん見かけた。今がちょうど季節のようだ。しばらく緩やかの道を下り、登り返すと展望台のピークに着く。切り立った谷を挟んで、半平山がそびえる。樹木がない岩のゴツゴツした半平山は、標高の割に人を寄せ付けがたい容貌だ。
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展望ピークから半平山と谷を望む、左奥は草山 |
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草深い尾根道、これから登る尾根筋が正面に見える |
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ロープを掴んで登る急坂 |
展望ピークは稜線から少し外れているので、分岐部へ戻り進む。また、更に少し下る。ここが尾根道の最低点だ。これから、200数十mの登りが始まる。草をかき分け、また時々灌木の下を歩いて行くと、補助ロープのかかる急坂が現れる。登り切るとまた灌木の平地に出る。野牡丹の他に、白とピンクの月桃の花もたくさん咲いている。この月桃は内側が黄色で美しい。急坂を苦労して登ってきて、美しい花々が咲いていると嬉しい気分だ。少し下り、またぐっと登るというパターンを繰り返す。南子吝山から1時間10分ぐらいの場所で、ほぼ垂直の岩壁が現れた。ロープを掴んでよじ登る。登り切ると、展望が広がる。歩いてきた尾根筋は、小ピークが幾つもある。登り下りを繰り返して来たわけだ。右の谷は、帰り道に下る石梯坑古道がある。その先に大石がある場所で休憩する。幸いにして、空には雲がかかり、草の尾根道を歩いている時は直射日光で暑い中を歩かずにすんだ。
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月桃の花が登りの疲れを癒してくれる |
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垂直の岩壁登り |
登りはまだ終わりではない。草をかき分けたり、灌木の中を更に登ること約30分、やっと尾根上の最終ピークを越える。ここから先、大きく下る。下りきると竹やぶの中を進んでいく。また登りが始まり、左に石梯坑山への道が分岐する。ここはそのまま右の尾根上の道を進んでいく。今日の行程最高点のピークを過ぎる。何の表示もないが、標高は400m弱だろう。このあとは、基本下りの道になる。少し下ると、補助ロープがかかる急坂が現れる。下ったその脇には岩をくりぬいたトンネルがある。過去、炭鉱から石炭を輸送するトロッコ用に掘ったトンネルのようだ。平渓の菁桐古道にも同じようなトンネルがあるが、開削はかなりの労力だっただろう。トンネルをくぐって反対側に出てみる。半平山から海に落ちる尾根が見える。その先の青い海が印象的だ。
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トロッコトンネル、右はロープで下る急坂 |
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福安宮土地公の石祠 |
トンネルから平な道を進む。ここはトロッコが走っていたのだろう。11時半、石梯坑古道との分岐に着く。直進すれば、苦命嶺から草山への尾根道にたどり着く。藍天隊の道標に、石造土地公とあるので、先に進む。そこには、古道の特徴である土地公の祠がひっそりとあった。中はすでに神像がないが、往来の安全息災を祈って古人はここで焼香したことだろう。分岐にもどり、ゆっくり食事休憩をする。森のなか、木漏れ日が眩しい。天気は晴天、のこりは下るだけなので、気持ちが楽になる。
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歩きやすい石梯坑古道 |
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沢を渡渉する |
12時少し前、石梯坑古道を下り始める。ゆっくりとした歩きやすい道だ。雑木林の山腹を、ずっと下っていく。方向を右に九十度換え下ると沢音が大きくなってくる。下ること二十数分で、右に苦命嶺への道を分岐する。道は、ここから沢沿いに下っていく。枝沢を幾つか越え、さらに下ること20分でまた分岐に来た。この道は、また先で合流する谷沿いの道とのこと。苦苓嶺への道へつながるようだ。我々は左の山腹道をとり進む。
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橋と奥には登った山が見える、ここで休憩 |
今日は、南子吝山で出会ったあと、山中では他の登山者に出会わなかった。先のほうで人声がする。下ってみると、二人の若い外国人男女が写真を写している。仁愛橋からハイキングで登ってきたのだろう。分岐から十数分で、先ほど別れた谷沿い道に合流する。その先道には石が置かれ階段としている。これも古道の風情だ。かなり広くなった沢を渡渉し、わずかに進むと砂利が敷いてある。山道はこれで終わりだ。その先、コンクリ製の立派な橋をわたる。渡った後、沢に下れる場所で休憩する。沢の水で顔を洗う。空は晴れわたり、水が冷たい。
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仁愛橋付近の海岸 |
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海岸から見る南子吝山 |
13時25分、2号海浜公路の仁愛橋に着いた。近くの駐車場には多くの車、大勢の観光客が沢に下りて水遊びをしている。時間も早いので、海岸に下りる。この周辺は東北海岸の奇岩がある場所だ。陽射しが強く、夏が到来したかのようだ。朝登った南子吝山を前方に見ながら、海岸沿いの道を歩き、13時45分に南雅バス停に着いた。近くの雑貨屋でビールを買い、皆で飲む。最高だ。休日の海浜公路は交通量が多い。14時38分に791番バスがやって来た。Hさんは、まだ台湾に来て日が浅い。一緒に基隆廟口の屋台で食事をして、台北への帰途に着いた。
今回の歩行距離は約8キロ、所要時間(休憩込み)5時間20分ぐらいだ。登攀高度は累計598mと、特に多いわけでもない。ただ、南子吝山からの尾根上は登り下りを繰り返すので、気温も高いこともあり、思いのほか疲れるルートだ。帰りに快適な石梯坑古道をとったので、トータルでは愉快な山行であった。海も山も満喫できる、そして古人の歩きを偲ぶこともできるこのルート、経験のある登山者にとっては、お薦めのコースだ。
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