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2012-11-04

2012年11月3日 烏來拔刀爾山・高腰山 - 紅河谷古道から登る

烏來山登山途中から見る拔刀爾山(中央)と高腰山(右の三角ピーク)、手前は美鹿山(2012/3)
久しぶりに烏來の山に登った。今年三月の烏來山、大桶山以来だ。今回は、烏來の西に位置する拔刀爾山を紅河谷古道から登り、保慶宮を経て烏來に下った。紅河谷古道は、烏來成功から加九寮溪にそって登り、峠を越えたあと熊空溪沿いに下って三峽熊空へ続く。今回の拔刀爾山へは、紅河谷古道より高腰山の尾根を登る道もあるが、その更に奥の作業小屋のある沢沿いから登る道を行った。拔刀爾山からは、主稜線を東に保慶宮登山口へ向かう。途中、高腰山へ分岐して往復した。保慶宮へは、烏來から西羅岸產道が続いている。これを途中まで下り、近道になる保慶宮歩道を下って、烏來バス停まで歩いた。

北側の成功から烏來まで歩く
拔刀爾山山塊は烏來集落の西側に位置する
烏來は、台湾原住民の一族泰雅族の居住地である。山も原住民の名付けのものもある。日本北海道では、原住民アイヌの土地の名前が残っているのと同じだ。拔刀爾山もそのようだ。文字を見ると「刀を抜く」という意味があるが、もともとの意味は泰雅族の祭器の形が山の形に似ているので、その言葉が由来とのこと。その後音が近いこの漢字が当てられ、現在の名前になっているようだ。泰雅族をはじめ山に詳しい台湾の原住民は、文献によると日本統治時代は登山の道案内や荷役で活躍している。

南勢溪を渡る加九寮大橋
烏來の山は、台湾中央を走る山脈の北端にあたる山々で、標高が高く山が深い。拔刀爾山はその中では、まだ烏來の街に近いアクセスが便利な山である。特に保慶宮まで車やバイクで来て登る、比較的楽なルートも取れる。筆者の歩いた紅河谷古道からの道は、一番遠いルートになる。拔刀爾山登山も、実は以前から長く計画を持っていたが、距離、所要時間ともそれなりに長く、躊躇していた。最近、幾つかの山行実績から自信を得たので、登ってきた。

紅河谷古道、枕木道で登りが始まる
台北から烏來へは849番バスが、15、20分に一本ぐらいの頻度で往復している。朝は台北から烏來へのバスは、公館を6時50分ぐらいに通過する便が初便のようだ。今日は長丁場なので、できるだけ早く歩き始めるために、これにあわせて公館バス停へ行き乗る。途中乗ってくる乗客は、お年寄りが多い。7時45分、今日の出発点成功に着いた。降りたのは地元の人と自分の二人だけだ。秋が深まり東北風も吹き始めているので、空は青空だが風が強い。

烏來方向へ少し歩くと、右に紅河谷への案内板がある。曲り角の商店はまだ開いていなが、年老いた犬が一匹前に座っている。谷に向かって道を下っていく。下りきると赤い立派な加九寮景観大橋が南勢溪にかかっている。説明文では、台風で壊されたもともとの橋の替りに2006年2月に建設されたそうだ。橋を渡り少し登りが始まる、左に加九寮歩道への案内があるが、紅河谷はここではない。更に進むと紅河谷古道の入口があるが、大勢の人がいる。制服を着ている人がいるので、何かと思い尋ねてみると、義警のメンバーで紅河谷古道を三峡まで歩くそうだ。

紅河谷古道の休憩所、土地公の祠がある
8時6分、階段を上がり山道を歩き始める。はじめはコンクリートの道が続く。ほとんど平な道だ。ところどころ、道に大雨で流された土砂がのっている。古道入口に、八月の蘇拉台風で生じた土砂崩れがあるので、紅河谷古道は危険という表示があったことが、うなずける。歩くこと10分足らずで、コンクリの道は終わり、左に枕木道が登っていく。数分登ると高度があがり、角を曲がると前方に谷の行く手が見える。谷の奥には山がそびえている。谷底はだいぶ下だ。ゆるやかな登り道が、山腹を縫って行く。8時40分、道は少しひらけ長椅子がある。中年夫婦が休んでいる。どこへ行くのか尋ねられ、七時間ぐらいかけて拔刀爾山経由で烏來まで歩くと答えた。一人でかなり歩くものだと、驚いていた。ここには、キリスト像と土地公の祠が、山壁の穴に祀られている。雨よけに帆布の屋根も掛けてある。

一番目の橋、鉄製の足場が渡してある
歩いてきた谷筋を振返る、遠くに直潭山,赤腳蘭山が見える
紅河谷対岸の山並みを見る
枝沢を越える橋がある。表面には建築現場で使う鉄の足場板が載せてある。もともとの木製橋は、流されたか古くなって危険なので取り替えられたようだ。橋を渡り少しいくと、左に山腹を登っていく道が分岐する。高腰山へ続く尾根道の入口だ。道は登り始める、登り切ると広場がある。ここからは、今まで歩いた谷筋が見える。谷の向こうには直潭山と赤腳蘭山が見える。写真を写していると、大勢の話し声が聞こえてきた。古道入口でであった、義警のメンバーが登ってきた。山岳救助を行う義警メンバーだけに、足がとても速い。20数名はいるだろう、ここでやり過ごす。三番目の橋を越し、ゆるい登りを行く。ところどころ、谷側の樹木が切れ、対岸の向天湖山の山筋が見える。切通しを過ぎ、道が左に曲がると枝沢が合流し橋を越える。ここは作業小屋がある沢の出会い場所だ。高台の右と左に小屋が造られている。準備があれば、十分に寝泊まりできる場所だ。追い越していった義警のメンバーや別の年配者パーティが、小屋の中や周辺で休んでおり、賑やかだ。時刻は9時20分、成功から歩き始めて1時間半なので、皆に混じりここで食事休憩をする。

作業小屋周辺で多くの登山客が休憩している、下方に沢を越える橋が見える
琉球雞屎樹の白い花と青い実
拔刀爾山への道は、二つの小屋の間から始まる。道は急な登りで沢を離れ、小尾根を進む。杉林の中をすすみ、そのうち左側の沢が近くなってくる。沢の脇に一旦降りる。枝沢だが山が深いだけに水量は多い。枝尾根のまたその右側の枝尾根沿いに道が登っていく。この山は花が多くないが、ところどころに琉球雞屎樹の小さな白い花が咲いている。青い実も少し実っている。水量の少ない枝沢を越えると道は山腹を巻いていく。道が右に折れて登る。ここはそのまま直進する道もあるが、これは間もなく踏み跡がなくなる。道筋に標識リボンはあるが、他の山にくらべると少ない。この付近の山腹は一面の杉林だ。烏來の山は、この杉林がとても美しい。杉林の中をずっと登って行くと、左に枝沢を見る。道が崩れて谷に落ちている部分を巻いていく。水量が少なくなった沢を越えると、また杉林の登りが続く。正面上方の木々の間に空が見えてきた。10時50分、拔刀爾山主稜線から下りてくる枝尾根に着いた。標高は約780m、拔刀爾山頂上まであと340mぐらいだ。

登山道脇の枝沢
杉の美林
杉の枯葉を踏んで登る
約1時間20分登ってきたが、ここでは休まずまた先へ進む。道は、枝尾根上の登りから左に山腹を巻いていく。まだ杉林の中だ。道には枯れた杉の葉が沢山落ちている。左に沢音が聞こえてきた。わずかだが水の流れる沢がある。先ほどの稜線にでたところから約20分の地点、標高は900mを少し下回る。頂上へは、あと少しだ。時刻は11時5分、小休憩をとる。休憩後、更に山腹をゆっくり巻いて登って行く。それが終わると、あとは主稜線まで標高差百六、七十メートルを直線的に登っていく。木々が少ないところから、周囲の山が見えるがすでに下方だ。山の向こうに街が見える。どうやら林口のあたりのようだ。11時40分、主稜線についた。ここは右に取り、拔刀爾山の頂上へ向かう。稜線上はけっこう風が強く吹き抜けていく。やはり秋の山である。なだらかな道を進み、途中右へ逐鹿山方面への道を分けたあと、わずかで11時48分に頂上に着いた。

拔刀爾山頂上から西方向を見る、卡保山とガスが頂上を隠す北插天山
拔刀爾山頂上と三角点
拔刀爾山頂上(標高1117m)は西と南方面は樹木が低く展望ができる。ただ、ススキの穂が高く、山々の眺めが遮られる。その他方面は、樹木が高くしげり展望がない。もし、北側が開けていれば台北市街や獅仔頭山などが見れるはずなのだが。西方向に卡保山、その左奥には頂上がガスに囲まれ始めているが北插天山がある。ここ拔刀爾山頂上は強い陽射しのもとだが、その先の高山はすでにガスの中で見えない。南側には、大保克山やその奥の峰々がススキの穂の向こうに見える。三角点に腰掛けて食事をする。座ると周囲の草木に遮られ、風は感じない。

小沢の中の道を行く
頂上で30分ほど休んだあと、下山開始だ。逐鹿山への分岐を過ぎ、その先登ってきた紅河谷への分岐は右に尾根道を取る。下って行くと、少し開けた場所がある。丸太で椅子が造ってある。ここから道は北東方向に変わり、谷あいを下る。石がゴロゴロしている。更に下ると小沢が現れた。道はこの沢の中を進む。幸いにして水はそれほどないが、水たまりは30センチぐらいあるので足を付けないように注意する。その先から、道は沢を離れ登り返して尾根直下を巻いていく。頂上から歩いて30分ほどで、分岐についた。ここは左にとれば高腰山方面へ行く。右はそのまま保慶宮へ続く道だ。まだ、時間が早いので高腰山へ往復することにし、左の道を取る。バサッと、音がしたかと思ったら、大型の鳥が前を横切った。黒色の体は分かったが、瞬間だったので何の鳥なのかわからない。更に下り10分ほどで、高腰山への分岐が現れた。この道をずっと行けば、紅河谷まで降りれるが、今日は高腰山頂上へ往復だけする。

高腰山の登りから見る遠景、遠くには石碇、平渓や坪林の山々が見える
近くに見える大桶山(左)と烏來山
高腰山頂上
割合と平坦な道が続いたあと、一度下りまた数十メートル登り返す。今回の山行はあまり景観展望ができないが、頂上の少し下で右側に樹木がまばらなところがある。遠くに翡翠水庫の湖面が少し覗いている。その奥には石碇や平渓の山まで見える。高腰山自身も尖った三角ピラミッドなので、遠方から判別しやすいが、同様に特徴のある中央尖峰頭尖、また皇帝殿山などが判別できる。その奥は四分尾山姜子寮山の山脈だ。近くには大桶山とその右に烏來山が見える。13時10分、拔刀爾山頂上から約1時間で高腰山頂上(標高976m)についた。周囲はすべて樹木で囲まれ展望はない。

先ほどの分岐へもどり、保慶宮へ下る。杉林が雑木林に変わる。分岐から20分で拔刀爾山から直接下ってくる道に合流した。こちらの道のほうが多く歩かれているようだ。尾根は幅が広くなり、道もゆるやかになる。一度登り返すと、左に美鹿山へ続く道を分岐する。この道は美鹿山を越したあとそのまま下れば、加九寮景観大橋をへて成功へ戻れる。今日はこちらを取らず、保慶宮から烏來へ下るので、右の道を進む。わずかの登りで美鹿南峰(標高850m)についた。近くの樹木の枝で造られた椅子がある。ここでしばらく休憩する。

美鹿南峰、椅子が造られている
保慶宮
ここから保慶宮へは標高差200mぐらいの下りである。補助ロープなども現れる尾根上の下りが終わると、山腹を巻いていく。ここで若い外国人四人組と行き違う。今日は好天の休日、それほど不人気の山とも思えないが、紅河谷から拔刀爾山を登り始めたあと、山道で出会った唯一の登山客だ。コンクリの道が現れると、程なく山道は終わりだ。14時45分に保慶宮に着いた。保慶宮はかなり大きな廟だ。野鳥観察のグループと思えるメンバーを数名見かけた。保慶宮は標高650mぐらいだ、標高約100mの烏來まで、まだかなり標高差がある。

保慶宮歩道の入口
保慶宮廟宇の前を通り、舗装路を左に下っていく。5分ほどで西羅岸産業道路と合流し、右に下っていく。つづら折りをくだると、ヘアピンカーブのたもとに立派な道標がある。烏來部落まで1.3kmとなっている。自動車用の産業道路が長い距離を下るのにくらべ、この保慶宮歩道はずっと近道である。入口付近から、遠くに台北方向がのぞめる。101ビルが判別できる。その奥には陽明山山塊も見える。歩道は枕木のしっかりした道だが、入口付近から雑草が多く、あまり歩かれていないことがわかる。しばらく下ると道に二、三箇所倒木がかぶさり、道を塞いでる。地元行政のメンテはほどんど行われていなのだろう。通り過ぎるとこはできるので、そのまま下っていく。



西羅岸産業道路(高度500m付近)から見る大桶山(左)と大保克山(右)のパノラマ
倒木が道を塞ぐ保慶宮歩道の様子
数分で下りきると、また産業道路に合流する。ここは樹木がないので、広く展望ができる。標高は500mを下回っているが、左は大桶山、烏來山から右は大刀山、大保克山までのパノラマがある。大保克山の中腹には、雲仙楽園が見えている。次回は大保克山へ登るか。また産道を下って行くと、道標が右に折れる細い舗装路を指している。これを下って間もなく左に、保慶宮歩道が現れる。これも雑草が生い茂っている道だ。倒木もある。これも10分足らずで下りきり、産道と合流した。標高は320mぐらい、保慶宮から半分ほど下りてきた。つづら折れの道を曲り、下るとまた右に烏來部落を示す道標がある。この道を下ると人家が現れ、犬が勢い良く吠えたてる。その先左に枕木の道が下っていく。下ると、枕木道が途切れてしまった。草むらの中に踏み跡があるので、それを下ると本当に道がなくなった。右側に駐車場があるのでそこに出た。どうやら温泉リゾートの中に出てしまったようだ。リゾートの中を下ると環山路に出た。保慶宮歩道は、ほとんど歩かれていないようで、ほぼ廃棄されたに近いのかもしれない。今はだれも歩いて保慶宮へ往復しないのだろう。

産業道路(高度320m付近)から見る大桶山(左)と烏來山
烏來バスターミナルまでは、あと僅かだ。環山路から温泉街へ入り、歩道の階段をくだった。この時間のこの場所は、カップルが多く道を歩いており、山を歩いてきた登山者は場違いの感じだ。烏來福徳宮に16時18分に着いた。保慶宮から約1時間半の下りだった。境内で少し休憩し、シャツを着替える。ここからは、南勢渓を挟んで対面に烏來山と大桶山が高い。烏來山は、急斜面で谷に降り立っている。三月に登ったときは、急な上りが続いたわけだ。吊り橋を渡り、バスターミナルへ着く。長い行列ができている。少し待つと16時40分にバスがやって来た。座れないが早く帰りたいので立席乗車し、17時20分MRT新店駅到着、MRTで帰宅した。

烏來吊橋を渡る、正面は烏來山
今回の山行は歩行距離約20km、休憩を含む行動時間は8時間40分だった。登攀高度累計は1290mの記録だ。本当に一日がかりの登山だ。烏來の山の登山は、今回のような歩き方だとかなりの距離で時間を要する。それだけ、山が高く深いということだ。それに対応するだけの景観があればもっと良いが、この山塊はそれとは別の深山の魅力がある。それは杉の美林であったり、渡っていく風のつぶやき、更に水量豊富な沢であったりする。このような山は、単独行であればあるほどエラーは許されない。今後も事前のルート確認など、十分な準備の上実行していくつもりだ。もちろん、同行者も歓迎だ。

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