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虎豹潭、右奥の山は大平山,手前は飛び石橋で対岸に渡れる |
新北市雙溪區は、台湾の東北端にある。宜蘭県と境界を分けている山である、
桃源谷や
灣坑頭山、また台北と宜蘭をつなぐ昔日の街道、淡蘭道の一部であった
草嶺古道などは、今までに訪れている。一方その奥の方は、一般交通機関によるアクセスがなかなかで、二の足を踏んでいた。今回は、新北市が運営している無料社区バスを利用させてもらい、この秘境を訪れた。
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小沢を橋で越えていく虎豹潭古道 |
今回初めに歩いた道は、辞職嶺古道という。およそ山岳とは関係のない名付けで、好奇心をそそられる。説明によると、1970年代まだ交通手段が便利でないこの時期に、奥の分校に赴任する学校の先生が、ここまでやって来た。しかし、山は深くこの先も大変と思い、辞職したことからこの名が付いたそうだ。ちなみに、この山は地図上では大埤山である。雙溪區の山は、標高はそれほど高くなく数百メートルであるが、稜線に登ってみると山がどこまでも続いている感じだ。この先生がどのような人なのか知らないが、眺めているとそうした気持ちになるのも、判らないではない。
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北側から南へ歩く |
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辭之嶺古道の高度プロファイル |
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紅壇古道から虎豹潭古道への高度プロファイル |
辞職嶺古道、今は雙泰產業道路を更に進むと、水量がとても多い沢にたどり着く。虎豹潭と名付けられているが、ここは四方を山に囲まれたすり鉢状の緩い傾斜の土地で、周囲の山から流れこむ水が、滔々と流れていく。下流で北勢溪に流れ込み、坪林を通り過ぎ台北の水甕、翡翠水庫(ダム)に流れていく。周囲との交通は、どの方向でも山を越えていかなければならない。古道が四方八方つづいている。その古道も、今でも歩かれている道もあり、昔ながらの石段や土地公の祠などが残る、とてもよい道が沢山ある。今回は一日の歩きで、辭職嶺古道,紅壇古道,大平山山腰古道,虎豹潭古道と四本の道を歩いている。それ以外にも多くの古道がある。
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平溪から雙溪の山々、今回の場所は雙溪の中程にある |
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雙溪の街中の橋に付けられた南天宮記念の門と旗 |
台鉄の雙溪駅から毎日二便、辭職嶺古道口や虎豹潭を通り過ぎ、さらに奥の灣潭までF811番社区バスが往復している。朝の便は雙溪駅8:36発車である。このバスに間に合わせるため、時間が少し早く着くが、南港を6:45の区間電車で向かう。この電車は瑞芳までは通学電車の性格だ。瑞芳を過ぎるとガラガラになる。7時45分に雙溪駅に到着した。バスが来るまでまだ1時間弱時間がある。駅前は露天商が沢山でて、さながら市場の様だ。すこし街をぶらついてみる。駅前の道から左に折れ、商店が続く道を行く。ちょうど、地元の大きな廟である南天宮の建立50周年のようで、それを記した旗や牌楼がたくさんある。橋を一つ越えていくと、警察局、郵便局や総合市場がある。その先、もうひとつ橋を越えると、瑞芳や福隆へつづく街道に出る。どうして雙溪の名前なのか、思わずうなづく。日本では、さしずめ二俣という名前になる場所だ。
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辞職嶺古道の入口、F811バス停がある |
駅へ戻らず、総合市場バス停からF811番バスに乗車する。乗客はみな地元の人達で、運転手とも顔見知りだ。先に貢寮方向に丁子蘭坑口まで往復する。もどって雙泰產道を進む。すぐに山に取り付き登り始める。稜線に近い道を進み、9時5分に辭職嶺古道の入口についた。入口には、説明板がある。上記に記した説明が書いてある。入口わきの土地公は、地元の人がお参りしているようだ。大埤山までは、コンクリ板が敷いてあるよい道が続く。昨晩までの雨で、少し滑りやすい。登り10分足らずで頂上(標高515m)に着く。
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大埤山山頂 |
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辭職嶺古道の様子 |
頂上の少し先には、開けた場所がある。北から東にかけて展望が望める。北側は
瑞芳の草山が、東端は福隆の海岸やそのわきの山がかすかに望める。時々陽がさすが、空気の透明度はそれほど高くない。古道はここから土の道となる。幅が広く快適な道だ。3,4分下ると分岐がある。左の方がはるかに多く歩かれているようだ。こちらを進み下ると、産業道路にでた。手前は蘭平千里の展望台だ。階段を展望台に登る。ここの眺めは、先ほどの頂上よりさらに東側になるようだ。山々が途切れなく続いている。
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蘭平千里展望台からの眺め |
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草深い道を下る |
このまま産業道路を下って次の目標にいけるが、それでは古道を歩いたことにならないので、また先ほどの分岐まで戻り、古道を進む。こちらは道幅はあるものの、草に埋もれ、また路肩崩れている部分もあり、明らかに歩かれていないようだ。分岐から5分ほどで、切り通しを過ぎる。そのすぐ先には、柑腳山東峰への稜線道が分岐する。こちらの道も草深い。道を下ると、右側の沢が深くなっていく。更に15分、杉林の中を下ると石段が現れる。その先は池になっている。池をまいていく道があるか探したが、それらしいものはない。また戻ってよく見ると、池の左端に飛び石が水の中に沈んでいる。これをつたって池の反対側にわたる。反対方向からきたら、池の先に道があるのがわからないだろう。その先も、道自体が沢になってしまっている場所がある。有刺鉄線柵にそって進み、コンクリの道にでる。これを下り10時19分に、雙泰產道との分岐に着いた。一度蘭平千里へ寄り道したが、辭職嶺古道は約1時間20分の歩きであった。
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紅壇古道わきには椎茸栽培が多い |
次の目標である紅壇古道へ雙泰產道を歩く。道行く車は、とても少ない。10分ほど歩くと、左に芊泰への道が分岐する。更に5分ほど歩く。谷が広がり田畑もある。白鷺が田んぼの中で餌を探っている。道すがら土地公を三、四カ所通り過ぎたが、どれもよく手入れされ、地元の人達が参拝していることが判る。地図では、ここから谷伝いに南へ紅壇古道が始まるはずだが、どう探しても見つからない。そこで、産業道路を道なりに少し登り、左へ泰平里3隣へ続く舗装道路を取り進む。尾根上を進んだあと、ジグザグに下って沢を越す。その先登り返し、左の大きな民家(大平20号)のわきの土の道が古道への入口だ。登って行くと、左から古道が上がってきて合流する。これが先ほど入口がわからなかった紅壇古道だ。古道は道幅も広く、椎茸栽培が道端で行われている。11時25分、古道の鞍部に着いた。民家入口から十数分の登りだ。鞍部から幅の広い道を直進すれば、破子寮へと続く。紅壇古道は右に谷を下っていく。大平山の登山道もここから分かれ尾根を登っていく。
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紅壇古道の峠部分、古道は右に谷へ下る、右わきには大平山山道がある |
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大平山への登り途中からの眺め |
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太平山頂上、周囲は樹木で展望がない |
紅壇古道を谷に降る前に、大平山を往復する。尾根上の道は、そこそこ歩かれている。細い幹の雑木林を過ぎ、稜線を右にそれて山腹を登る。山腹は樹木が切られているのか、下草だけの部分があり、そこから展望が得られる。この山域は初めてなので、山の名前はまだ判別できない。鞍部から約15分の登りで大平山頂上(標高575m)に到着した。今日の行程最高地点だ。三角点基石がある頂上は、それほど大きくない。周囲は樹木が高く、展望はほとんどない。時刻は11時36分、今日はまだ何も食べていないので、ここで食事を取り休憩する。
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沢が古道を横切る |
来た道を戻り、鞍部へ下る。紅壇古道は下りも広い道が続く。緑に苔むした石段が降りていく。そのうち沢の水が道を横切る部分を過ぎる。最近の雨で水量が多いのか、それともこれが常態なのかとても水が多い。水が溢れて路面を覆っている箇所もある。これを抜けると右に先ほど登った大平山が高く見える。下ること15分で、谷底についた。紅壇古道にそった沢はここで主流に合流する。コンクリ製の橋が水量が多い沢を越えていく。橋を越え対岸にわたる、すぐ左に三方向古道が石段で登っていく。大平山山腰(山腰=山腹)古道は右の道だ。
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三方向古道が左に分岐する、右は山腰古道 |
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山腰古道は沢の主流を越える、水量が多い |
山腰古道を進む。草むらを通り過ぎるが、足もとは水が溢れて靴が沈む。本当に水が多い。本流に飛び石が続いいている。渡渉する。水がとても多く、飛び石は水がかぶっているものもある。慎重に渡るが滑って足が水に浸かってしまった。渡きると靴の中は水だらけだ。靴を脱いで水を絞るが、それでもまだとても湿っている。こうした時は長靴がよいと思う。この後は、ずっと右岸を進む。渡渉部分から10分ほど歩くと、左にそのまま虎豹潭古道への道を分ける。右の石段を登り、さらに山腰古道を行く。歩くにしたがって、沢は幅が広がり水量も増えていく。道も沢の水際からかなり高い部分を進んでいく。ところどころ、笹が茂っている部分もあるが、概ね幅の広い良い道が続く。途中枝沢を越え、山肌を縫って行く。13時4分、山腰古道は人家の前で終了する。この道を右にとれば、先ほどの大平20号の民家へと続く。左にとり下る。下りきったとこもまた分岐だ。分岐わきの沢を越えるコンクリ橋をゆけば、樓仔厝古道を経て虎豹潭へ行ける。
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コンクリ小橋を越え、虎豹潭へ向かう |
分岐は左に折れ、虎豹潭古道へ向かう。またコンクリ製橋がある。古道にこうした橋ができているということは、住人たちがかなり最近まで日常的に古道を使っていたということだろう。数分歩く。左に登っていく道が分岐する。これが先ほど山腰歩道から分岐した虎豹潭古道である。ここから先も虎豹潭古道が沢沿いに虎豹潭へと続く。道は少し細くなるが、よく歩かれており路面には草などが生えていない。谷底の沢は幅が増し、水音が響いてくる。沢は大きくくねって進み、古道もそれに合わせて方向を変えていく。13時36分、左から注ぐ小沢沿いに横山登山道が分岐し、登っていく。その少し先にまた小沢が注ぎ、その橋のところに土地公の祠がある。この祠は中が空で、もう拝まれてはいないようだ。左に竹子山古道が分岐して行く。ここまで来ると、古道歩きはもうのこりあと僅かだ。
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虎豹潭古道は水量豊富な沢ぞいを行く |
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竹子山古道分岐わきの土地公の祠 |
左からコンクリ道が合流し、その少し先で虎豹潭の飛び石橋に着いた。13時55分、今日の歩きはこれで終了だ。沢は広く、その中に広い岩が水面から顔を出している。水はその左岸側に集まり、滝となって滔々と流れていく。反対側に渡り、岩のわきで休憩する。一日二便のF811バスは、15時36分に虎豹潭バス停に来る予定だ。あと1時間半ほど時間がある。沢岸でゆっくり、秋の陽射しを浴び、残ったコーヒーや食べ物をたべて過ごす。他には誰も遊楽客もおらず、独り占めの虎豹潭だ。15時過ぎ、荷物をまとめて残り僅かの遊歩道を歩き、バス停へ向かった。手洗場所近くから振り返ると、沢の奥のほうに大平山が頭を出して見送ってくれている。バスは、予定時刻より2、3分早くやって来た。
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この飛び石橋を渡れば歩きは終わりだ |
歩行距離11km、登攀累計約600m、最後の沢岸での長い休憩を除く所要時間は約5時間である。ルート難度は、辞職嶺古道の後半部分がクラス4であるのを除いて、クラス2~3、体力要求度は3というところだ。古道は、もともと山の頂上を目指すものではなく、他の場所との交通のため最も楽なルートを行く。今回も登りはあるものの、平らな部分もけっこうある。幅員が広く、歩きやすいところも多い。秘境虎豹潭は、実は魅力ある古道の宝庫でもある。四方を山に囲まれ、これらを越していかなければならなかった住人の生活を支えた古道が、今こうした見直され歩かれるとことは、とてもよいことだ。願わくば、このよい状態が今後もつづいていくように。F811バスの終點灣潭も古道があるが、こちらは過度に整備され生態系を壊しただけでなく、200年の歴史も葬ってしまったそうだ。別の古道を歩くために、また訪れることにしよう。
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